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この日オレは、一人さみしく学校に帰っていた。一緒に帰るような友達なんてまだ居ない、そんな頃。
決してクラスに馴染めていないわけではない。オレは変人とみなされる事が多く、話すクラスメイトは居ても、”友達”という関係ではない。
「はぁ……咲希は大丈夫だろうか…」
可愛い妹の咲希は、病気で入院しているの で毎日見舞いへ行く。
が、この日は行かなかった。なんだか、そんな気分ではない。…なんだそれは。愛している妹の見舞いに行くのは普通だと考える人は多く居る。
オレだってそうだ。毎日行っているのだから。…だが、今日は
「なぁなぁ、お前の母ちゃん来た?」
「オレんとこ爺ちゃんだっつーのw」
「そうだったわw」
…授業参観だ。
昨日から咲希の容態が悪化し、両親共に授業参観ではなく、咲希の方へ行った。
それはそうだ。オレの授業参観なんかよりも、咲希の方が大切だ。
そんなの、分かりきっている…はずだ。
オレはそんな事に嫉妬してしまった。いつもいつも咲希ばかり。オレの事は放ったらかしか?
授業参観も、今回だけじゃない。一度だって来てくれたことがない。
テストで100点をとったときも、ピアノのコンクールで賞を貰った時も、少し風邪を引いてしまった時も、親子レクの時だって。適当に返事をして、「また後で」なんて言われて。オレを見てくれたことはないじゃないか。
…そんな事で嫉妬してしまっては、どうしようもないか。咲希だって頑張っているし、オレのようにテストも授業参観も、親子レクだってない。病気のせいだ。病気のせいでそんな事出来ない。
そうだ、別に咲希のせいではない。病気のせいだ。あれもこれも全部。
…なぜだろう。そう分かっていても行く気になれない。
「……咲希…」
「わー!!凄いっ!」
「うわっ、なんだこれ!?」
「爆発!?」
「紙吹雪が…!!」
なんだ。なんなんだ。爆発だの紙吹雪だのと…なにかのイベント事か?
気になって仕方がなかった。そんなに騒がれたら気になるのは当たり前だろう。
「…行ってみるか。」
結局、咲希の見舞いには行かず、沢山の声がする方へと行ってしまった。
「ここ…か?」
そこには人だかりと、向こうの方には…どこかの学校の制服?らしきものを着た、紫髪の青年ががいる。
「皆様、ようこそお越しくださいました。」
この辺では見ない光景に呆気を取られていると、その紫髪の青年が話し始めた。
「ここに来て下さった皆様、ショーを存分にお楽しみ下さい。」
「ショー…??」
ショー…幼い頃、母さんと父さん、咲希と一緒に観に行ったなぁ…
……最後まで観てから見舞いに行こう。それならまだ、咲希は悲しまずに済む。
心地の良い歌声、綺麗なステップ。彼の指示通りに動くロボット達。空に浮かぶ風船。風向きに飛ぶ紙吹雪。怪しげな機械…どれもこれもオレの興味を惹いた。
「〜〜〜!!ーー♪」
ああ…綺麗だな…
「ありがとうございました。」
彼のショーが終わり、観客達は感想を言い合いながら歩き出す。
彼もまた、道具を集め、帰り出す。
「なぁ…!!」
オレは頭で考えるよりも先に、声が出て、体が動いていた。
「おや…どうしたんだい?」
…近くで聞けば、より心地良い声だな…
「先程のお前のショーを観ていたんだが…」
「ふふっ、僕のショーは気に入って頂けたかな?」
『僕』、か…、なんだか少し、可愛いと思ってしまう。
「ああ。その…とても、綺麗だったっ!!!歌も踊りも表情も、全てが…なんというか…美しくて、もう翼が生えて見えたと言うか…」
「…!!っぷ、あっはは!!ふふっ、そっかぁ…」
「…!!!!//」
……何だコイツっ、何だその笑顔…っ
この心臓の痛みはなんだ!?心音が聞こえているのではないかと言うほどに心臓がバクバクと動いている。
「そんな風に言ってくれたのは、君くらいだよ。ありがとう。えっと…」
「司だ!!!あ、て、天馬…」
「天馬司くん、だね。ありがとう、天馬くん。」
名前を読んでもらえた。こんなに美しい人に。
「司で良い。寧ろ、そう呼んでくれ。お前の名前は…?」
「僕は神代類。よろしくね。名前呼びは、駄目なんだ。だからこのまま、天馬くん。」
「なっ!!!!なぜだ!!」
なぜ、名前呼びは駄目なのだろうか…まぁ、会って間もない相手にいきなり名前呼びも、と思う人は沢山居るだろうが。
「う〜ん、それはまた今度教えてあげるよ。」
「ぐぅ…あ、か、かみし…類!!!連絡先を聞いても良いだろうか!?」
「え…?」
凄くびっくりした、と言わんばかりの顔。そんな顔もまた可愛い…いやいや、可愛いってなんだ!!!こんな…
「天馬くん…?」
こんなっ…
「おーい、天馬く〜ん?」
こ、んなぁぁ…
「て〜ん〜ま〜くん」
「んぐぐぐぐ…」
「そんなに口を噛み締めたら血が出てしまうよ。…連絡先、交換するんだろう?」
「あ”っ、ああ…」
連絡先、交換してくれるんだな…
「今日は良いものを見せてもらった。連絡先まで交換してもらって…ありがとう、類。」
「ううん、良いよ。天馬くん。こっちこそ、ありがとう。嬉しかったよ、あんな風に言われるのは初めてだったから…。」
「そうか……なぁ、類。オレの話を聞いてくれないか?」
オレは咲希の事について少し話そうと考えた。1人で悩むより、誰かに話したほうが楽だろうと思ったからだ。
「うん、勿論だとも。」
オレは、咲希の病気について、それで両親共に忙しいこと、オレの苦しみを全て類に打ち明けた。
辛かったね、って。そう言って抱きしめてくれた。…とても、嬉しかった。オレの辛さを理解してくれて、慰めてくれて。そんな気持ちと同レベルにドキドキした。そんな悩みすら吹っ飛ばすような胸の高鳴りだった。
「僕には君のように兄弟はいないけれど、独りにされて、苦しくて…そんな気持ちは理解できいるつもりだよ。 」
「類は…独りなのか?」
「……ううん、もう独りじゃない。天馬くんが居るからね。」
「…!!!!オレも…もう独りではない。類と一緒だ!!!」
類のそんな言葉が嬉しくて嬉しくて。
「!…、ふふっ、そうだねぇ…」
類はずっと抱きしめてくれて、言葉を掛けてくれて。
「……ありがとう、類。オレは咲希の所へ行かなくては!!必ずまた会おう、類!!」
「フフ♪うん、またね。行ってらっしゃい。」
オレが咲希のもとへ行けば、咲希は大号泣。『来てくれないのかと思った』だの、『アタシがこんなだから、嫌われちゃったんだと思った』だの、泣きながらなので、聞き取りづらい声で言われた。あまりにも可愛らしくてで苦笑してしまう。
ああ…やっぱり咲希は、オレの大切で最高の妹だ。咲希も咲希なりに辛くて、苦しくて。それでも自分の病気に向き合って、生きているんだ。
そんな簡単な事にも気付けなかったオレは最低だ。だが、やっと気付けた。
…これも、類のおかげだな…