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第四節 【二人、二組】


その日は、やけに空が青かった。日曜日、僕と先輩は大学が休みで、二人で出かけることになっていた。

勿論、事件の捜査か尾行か、先輩には考えがある様子だった。

詳しいことを教えて貰えなかった僕は、先輩と食事以外で出かけることは初めてだった為、デート気分で少し___いや、まぁまぁ浮かれていた。




マンションの部屋まで来た時、いつもはインターホンを押すのだが、ふと思い、扉にそのまま手を掛ける。

引っ張ると『ガチャン』と音を立てるだけで扉が開かない。鍵が掛かっているのだ。

一般常識で当然のことだが、僕はとても安心し、インターホンを鳴らす。


「今行くわ、職くん。」


鍵の開く音がして扉が開き、いつもにも増して美人な先輩が顔を出す。


「先輩、化粧してます?」


「いえ、してないわよ」


成程、服装か。

いつものセーターにジーンズ姿も良いと思うが、今日は夏用のアウターにロングスカートである。

僕の知っている変わり者の先輩はおらず、アイドルやモデル顔負けの魅力が出ている。


「人って服装でここまで変わるんですね。」


「職くん?どういう意味かしら」


「いえ、まぁ…。それより先輩、鍵を掛けれるようになったんですね、流石です。」


「職くん、さっきから褒め言葉になってないわよ」


先輩は荷物を取りに一度中へ戻っていった。

ああ言うからには、別に褒められて照れたわけでは無いのだろう。1年近く一緒にいるが、そもそも照れたところを見たことも無かった。




少し街に出たところで、僕は気まずくなり始めた。

(いつもは社会に浮いている)先輩が、今日は普段とは違う視線を集めているので、パッとしない僕は隣にいるのが相応しくないような気がしてならない。やはりこの人は黙っていれば美人なのだ。

洋服店に雑貨屋、飲食店。どこに行っても視線が集まる。

変な緊張感により、本来の目的が分からなくなった僕は、そのうち先輩に荷物持ち 兼 男避けとして連れてこられたのでは、と思うようになった。

実際に僕は先輩が買ったものを持たされた。もしかしたら引きこもって僕に任せるのも限界が来たのかも知れない。

先輩も大学生なのだ。きっと買い物を楽しんだのだろう。特に昼食の時は楽しそうだったし。


「職くん…ごめんなさい、つまらないかしら?」


そわそわと落ち着きが無く、気まずそうに歩く僕に見かねたのか、先輩が申し訳無さそうに声をかけてくる。


「え、あ、いえ、その、」


何より先輩が美人過ぎて直視することが出来ない。

情けなくどもる僕をよそに彼女は言葉を続ける。


「もうやることは終わったから、大丈夫よ。」


「えっ、終わったんですか?」


「ええ。それで、これからなのだけれど」


先輩は時間を確認する。


「もう少ししたら、ゾンビ映画でも見にいかないかしら?」


その言葉に驚く。僕はホラーは苦手だが、昔からゾンビ映画は怖くなく、とても好きだった。


「映画の話、前に1度話しただけだったのに…覚えててくれたんですか」


「そうね、覚えていたわ。職くん次第だけれど、どうする?」


「勿論行きますよ!是非とも一緒に…」


先輩が「フフッ」と笑うのを見て、はしゃぎ過ぎたことに気付いて恥ずかしくなる。

その時、僕の背後から大きな声が聞こえた。


「姉さん!!」


驚いて振り返ると、そこには少し先輩に似た高校生ぐらいの女の子と、日曜日の筈なのに何故か制服を着た男子高校生がいた。


「ちょっと、誰よアンタ。」


女の子はズカズカと僕に歩み寄ると、下から睨みあげてくる。


「えっ……その…」


「小春、落ち着いて。彼のことは少し前に話したでしょう?」


「コイツが?ふ〜ん…」


顔がどことなく似ていることから、恐らく先輩の妹さんだろう。

何と言うべきか、おしとやかな大菜先輩とは真逆で強気な子だ。

小春と呼ばれたその子は僕のことを品定めするように観察すると、


「姉さん、今時間ある?」


「そうね、映画までまだ少しあるわ。」


「じゃあ決まりね。妹として、姉さんが騙されてないか確認しなくちゃ」


どうやら僕は尋問されるようだ。助けを求めるように先輩を見るが、先輩は気付いていないのか、


「そうね。私も姉として、小春の彼氏さんを知っておかないと。」


そう言ってさっきから突っ立ったままの青年を指差す。彼は眠そうにしながら両手をポケットに突っ込んだまま、先輩と妹さんをちらりと見る。


「小春、彼氏が出来たこと、どうして話してくれなかったのかしら?」


「ちょっと、姉さん違うわよ!アイツは私の彼氏じゃなくて…」


「まぁまぁ、と、取り敢えずどこか座って話しませんか?」


どうしたら良いのか分からず、取り敢えず僕は一旦この場を落ち着かせることにした。

近くの喫茶店に入ることに決まり、僕はこれから待ち受けるであろう質問攻めに憂鬱な気分になった。

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