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高校三年生の頃、不登校になった。
ある時を境にぱったりと高校へ行くのを止め、皆と共同で使っていた居間から隣の物置で寝起きするようになった。
不登校の大きな原因はあるが、それ以外にも誘引剤は多々あった。まず毎朝同じ時間に起きて、朝食をとり制服を着こむ。四角い鞄を手にして学校に通う。単調で量産的な行動に飽き飽きしていたのだ。
当然いつもは能天気な両親も真夜のことを案じて、他の兄弟に感情のありかを探させたりした。今なら分かる。両親が案じていたのは、不登校ではなく兄弟たちとの間に生まれていく隙間のことだ。
元より他の兄弟より多弁ではない真夜の思考回路は謎に包まれていたし、真夜自身も社交的な自分など想像したこともなかった。
それに物置はおあつらえ向きだった。狭いリビングに、窓は一つ。それもあまり日当たりは良くないので、一日中ずっと明かりを点けていないとならないほどだった。
薄暗い部屋ですることは一つだけ。本を読むことだった。それもかなり古い純文学を浴びるほど読んだ。近所の古書房で二束三文で売られているので、さほど金も要らない。
壁にもたれかかって、購入したばかりの古本のページをめくる。表紙が外れかけて黄ばんでよれている。読書を妨げるように、扉を軽くノックする音がした。
「よ、真夜。開けてくれよ」
軽い口調の主は、長男の慎司である。他の兄弟は気遣って話しかけてくるのに、この男だけは飄々としている。だから毎回、ペースを乱されるのだ。
「なに……」
戸を開ければ、雑誌を手に彼が詰襟を脱ぎながら無遠慮に入ってきた。
「本読ませてー。あの部屋、真也がギター弾いてて五月蠅いんだよ」
「ちょっと」
同意も得ずにずかずかと上がり込んだ慎司は、敷きっぱなしの布団へ寝転がって雑誌を開き始めた。遠目でも分かる、卑猥な雑誌である。
「ここでマスかかないでよ」
あらかじめ釘をさしておかないと、この兄は何をするかわかったものじゃない。彼は生返事を返したが、すぐに本を閉じた。本当は雑誌を読みに来たんじゃない。それも知っている。
焼けるような眼差しを真夜へ流し、黙って手招きをする。拒否権は無い。従うしかないのだ。
起き上がって胡坐をかいた慎司の腕に引かれて、その腕のなかに座る。腕を上げたかと思うと、頭上でぴたりと掌が止まる。肩をびくつかせているうち、優しい手つきで頭を撫でまわされる。
「真夜は兄弟で一番かわいいな」
咳を切ったように、溢れるほどの官能の言葉が降りかかる。
「真之介は俺にちゃんとしろーって怒るし、元気は何考えているかわかんねぇし、優希はリア充だろ~?」
額を首筋にすりつけられる。くすぐったくて肩を震わせた。
そろりと視線を動かして合わせた。慎司の探るような眼差しに言葉を無くす。
「真也はどうなの」
次男の名前を口にしない理由を知りながら聞いた。慎司の瞳が熱を持って輝く。悪戯っ子が新しい遊びを見つけたみたいに悪いかおだ。
「嫌いだから」
「次男でしょ。一番近いじゃない」
腰にまわった腕が離すまいと締めつけて来る。きっとその腕は真夜の胸骨の間をかいくぐり、心の臓をも掴みきってしまうのだ。
「一番近いから大嫌いなんだよ」
耳の近くで囁く低い声色は、冥府からの死者の声か。
「あいつは誰よりも俺を知っている。俺を見ているから、嫌いなんだよ」
熱く濡れた舌先が耳朶を舐め上げて最奥まで入り込む。頬に熱が集まっていくのが分かる。真夜の肩が上下するのを知って、下腹部へ慎司の手が這わされていく。
「やめてよ、兄さん」
咎めても慎司の手は止まらない。ジャージを下ろして、真夜の陰茎をにぎり込んでしまう。興奮して反り返った陰茎を上下に扱きあげられる。喉奥が引き攣れるような声しか出ない。
「ぅ、ゥ……ッ……」
陰茎の割れ目を指の肌でなぞられる。腰が疼き、くねりだす。溢れはじめた先走りを指の腹で叩き、擦られる。射精への道がすでに花開き始めている。喉を鳴らし、漏れ出る吐息を途切れ途切れに吐く。
―慎司兄さんは、毎度ここに来るたびに、これをする。
性に対して無関心な自分を慰め、真夜が射精してしまうと部屋を出て行くことの繰り返し。慎司も興奮していないわけではない。腰に彼の硬い熱量を感じているのだ。それなのに、慎司は自分自身を慰めようとはしない。
「ん、はぁ、っ……にいさ」
つま先が布団をかき乱し、濡れた股の間が熱くてたまらない。あふれ出しそうだ。慎司の太い吐息が耳朶を打つ。真夜の臀部に押し当てられる熱の塊が、興奮の要因を教えてくれている。