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「やっぱり風呂はいい、大浴場と違って狭いけど落ち着いて浸かれる」
でも石鹸等は置いてない。
ホント風呂があるだけだ。
「なんだろうね、余裕が出てくると生活水準を上げたくなるのかな」
そう思うと、中央都市エルヴィンに色々と期待したくなった。
「ふぅ、良い湯だった」
「悪いな、先にいただいてるよ」
食事を済ませたのか、リズさんは窓際でワインをボトルごと……グラスも買っておけばよかった。
夜風が気持ちいい……ランタンの灯りに照らされながら、僕もチーズをつまみにワインを一口。
……こ、これは間接キッスなのでは!?
「どうした? 私の顔に何かついてるか?」
「いえ……なんでもないです」
こっちが照れてばかりでずるいよ姉御。
「……わからないものだな」
「何がですか?」
「ちょっと前に知り合ったばかりなのに、今はこうして同じボトルから酒を飲むことになるとはな」
「組もうって言いだしたのリズさんですよ」
そういえば聞いてみたいことがあったんだった。
「なんで……僕と組もうと思ったんですかね?」
雑草フォーエバーから助けてくれたから、という理由だけなのだろうか。
「最初は私もお試しのつもりだったんだぞ? だが初めての討伐依頼の時、エルが魔法でゴブリンを一瞬で仕留めるのを見たとき確信したんだ。……こいつはきっと強い、実力を隠してるってな」
あれだけの虐殺行為の中、こちらのことをそこまで見てたなんて……とても怖いです。
「それに、私のことをあれこれ詮索してこなかったしな」
「それはまぁ、お互い様というか……聞きたいことがないわけじゃないですけどね」
それだけ強いのになぜ今更冒険者に? とか、マッチョというわけでもないのに怪力なのには秘訣が? とかホントは聞きたい。
「ふむ……じゃあこういうのはどうだ? 相手の質問に一つ答えたら、今度は相手に一つ質問できる。晩酌の余興にはちょうどいいだろう」
「……僕が嘘をつく可能性もありますよ?」
「私も嘘をつくかもしれんぞ? つまりお互い様だ」
「そういうことなら……お先にどうぞ」
こういう時は、レディファーストを忘れない。
……質問するほうが緊張するからってだけだけどね。
「じゃあ……エルは何で冒険者になったんだ? 飛行魔法なんて使えるほど優秀なら、宮廷魔導士だって夢じゃないだろう」
優秀だなんてそんな、テヘヘ。と言いたいところだけど違うんです。
「前にも言いましたけど、使える魔法自体はホント少ないんですよ」
飛行魔法も借り物……アーちゃんのおかげだし。
「あとはまぁ……元々孤児なので、あまり選択肢もなかったんです」
「すまない、嫌なことを聞いたな」
「気にしないでください、変なしがらみもなくてある意味楽ですよ」
変態貴族に売られそうにはなったけどな!
「じゃあ今度は僕が聞く番ですね。リズさんこそ、どうして冒険者になったんですか?」
あれだけ強いなら、騎士団とかからスカウトされそうなものだけど。
「そうだな……きっかけは、以前の仕事をクビになったからなんだが。私は元々、西のオルフェン王国出身なんだ」
まさかの同郷でしたか。
「オルフェン王国近衛騎士、平民上がりのリズリース。それが冒険者になる前の私だ」
「わぁ……」
思ってた以上にすごい人だった。
そんな人が冒険者になるだなんて、これはひょっとしてけっこう重い過去が……。
「だが鍛錬の度に、剣や備品をダメにしてしまってな。元々平民上がりで風当りが強いのもあって……クビになった」
思ったより軽かった。
「最初は財務大臣も笑って許してくれてたんだぞ? でも段々表情が暗くなっていって……最後は泣いてたな」
国の財政に影響が出るほどなんですか。
「でも国を出る必要まではないような……」
「……後になって弁償しろと言われたら怖いじゃないか」
「それはさすがに……いやありえるのかな?」
オルフィン王国のことにそんなくわしくないしなぁ。
自分の出身国なんだけどね。
「それに、久々に実家に帰ったら……『旅に出ます、探さないでください。父と母より』……という書置きがあってな」
「……逃げたんですかね?」
「そう思いたくはないが……まぁ元々二人とも冒険者だったからな」
はぁ……とリズさんはため息を吐く。
ご両親に苦労されてるんですね。
「あとは、一番近い隣のエルラド公国を目指してひたすら東に進んで……着いたのがミストの街だったというわけだ」
「そこで冒険者になって雑草を食べてたと」
「親を倣って冒険者になってみたんだがな……ほろ苦い味だった」
そりゃ草だからね。
「つまらない身の上話になってしまったな」
「いえいえ、そんなことはないですよ」
実際、破天荒な内容で刺激的だった。
「じゃあ今度はまたリズさんが質問する番ですね」
「いや、それはまた今度にしよう。一度にすべてを聞くのはもったいない」
粋なことをおっしゃいますね。
機会はいくらでもある、だって僕たちの冒険はまだ始まったばかりだから……ってことだね。
そしてこの日は、ちょっとだけ回った酔いに任せ、眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日、リズさんと武具店に来ていた。
武器と防具を揃えており、あきらかに格が違うと思われる剣まで飾ってある。
綺麗な剣身、装飾に宝石まで使ってある剣が一番高いようだった。
「金貨10枚か……」
「あれは見た目だけの飾り物だな、貴族が好きそうな剣だ」
見栄っ張りな貴族用ということか。
他にも展示されてる武器はどれも一点物のようで、金貨5枚以上するものばかり。
無難なところを選ぶなら、派手な装飾はないが綺麗に陳列された様々な剣。
札には鋼の剣と書かれている。
(値段は……だいたい金貨1~2枚。けっこうするんだね)
あとは雑に並べられた鉄の剣が銀貨2~6枚。
ここら辺はいわゆる安物だろう。
「ちなみに近衛騎士で使ってた剣って、どれぐらいのものなんです?」
それを基準に、もうちょっと丈夫な剣をリズさんには持ってもらいたいところ。
「金貨3枚する剣だそうだぞ? 壊す度にしつこく言われた」
「……けっこうなお値段しますね」
「近衛騎士に配備される装備は、量産品でもトップクラスの品質の物ばかりだからな」
そんなものを鍛錬の度に破壊されてたら、そりゃ大臣も泣きたくなるよね。
「まぁ……この辺が無難か」
陳列された鋼の剣を眺めながら、リズさんは呟く。
その表情は、あまり満足そうなものではなかった。
(もっと欲張ってくれてもいいのに)
そう思い、リズさんに提案する。
「あっちの一点物から選びましょう。ほら、ミスリルとか書いてありますよ」
「いや、金貨5枚だぞ? それにあれはミスリルを使ってあるだけの駄作だ」
「えっ? 駄作? 金貨5枚もするのに?」
「ミスリル自体が貴重だからな、あれはほぼ素材の値段だ」
失敗作ってことか。
見た目からじゃわからないもんだ。
……というかそんなもの展示するなよ。
「展示されてる一点物は基本的に客引き用だからな、実用性は微妙なものが多い」
たしかに派手なものが多い。
「鍛冶屋直営店なら話は別だがな。ここにも悪くないのがあるにはあるが……いや、それでも一点物は高いから止めておこう」
チラッとだけリズさんが見た剣を、僕は見逃さなかった。
展示されてる一点物、そして派手な装飾もない直剣。
「なるほど……これですね?」
金貨6枚と書かれた一点物を指差す。
「たしかにそれは悪くない品だ……だが金貨6枚だぞ?」
「臨時収入が入った今なら、払える金額ですね」
「たしかにそうだが、報奨金はキミの手柄だしな……」
「適材適所というものがあります。今回はそれが僕だっただけですよ」
これはリズさんが先に言ったことだ。
さぁ、遠慮なんて捨ててしまえ。
「むぅ……それを言われると何も言えなくなる」
「遠慮なんてするからです」
「……すぐダメにしてしまうかもしれんぞ?」
「それなら一緒に稼いで、また買いましょう」
いつかきっと、リズさんの力に耐えられる剣が見つかるはずだ。
「はぁ……私は世界中の鍛冶師に恨まれるかもしれんな」
だがその表情は、どことなく嬉しそうだった。