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テラーノベル(Teller Novel)
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「いったい、何が……」


私は開いた口が塞がらなかった。

コウカが光に包まれたと思った次の瞬間、少し見た目が変わったあの子があれほど脅威であったオーガを倒してしまったのだ。

明らかにその強さは以前と異なっている。先程の魔法を見て、未だにあのスライムがコウカであると確信しているのは、テイマーとしての繋がりをしっかりと感じているからであった。


いったいコウカに何があったのかと考える。

そして私にはスライム限定の《鑑定》スキルがあったことを思い出し、コウカに向けて《鑑定》を使ってみることにした。

前のコウカは種族がエレメントスライムだったはずだ。それがライトニングスライムに変わっている。さらに属性の欄に新たな属性として雷が追加されていた。

これはいわゆる進化というものなのだろうか。


だが私の思考はアルマの上げた声によって一旦中断されることとなる。


「カリーノ! ヴァル!」


そうだ、こっちのオーガは倒しても、カリーノとヴァレリアンは未だに戦闘を続けているはずだ。

オーガと戦っているうちに大きく離されてしまったのか、2人の姿はここからでは見えない。


「コウカ! もう1体のオーガも倒して!」


私の声を聞いたコウカが体に稲妻を纏わせたと思えば、先に駆け出していたアルマを超えるスピードで追い抜いてしまった。

以前のコウカの足の速さは私の半分以下でしかなかった。そのため、足の速いアルマには到底敵うものでもなかったはずだ。

それがどうだ、今やアルマを軽く追い抜いてしまったではないか。

驚きのあまり逸れてしまった思考をすぐさま切り替えると、とりあえず近くに突き刺さっていたアルマの剣を回収してから彼女たちを追いかけることにした。


そして私がコウカたちに追いつくと、そこには倒れたオーガの他に片膝をついて荒い呼吸を繰り返すヴァレリアンと地面に座り込んで空を仰ぐカリーノの姿があった。


「カリーノ!」


アルマがカリーノの側に座り込んで、その体を強く抱きしめる。


「よかった……ホントに……」

「お姉ちゃぁん……あたし、しばらく魔法使いたくないかも……」


2人の抱擁はカリーノが「苦しい」と言うまで続いた。

妹を解放したアルマが、今度はヴァレリアンのほうへ顔を向けた。


「ヴァル……君も無事でよかった。それとカリーノを守ってくれてありがとう」

「絶対に守ると約束したからな。それにカリーノは俺にとっても大切な妹のような存在だ。今さら礼を言われることでもないさ」

「何を言っているのさ、そんなにボロボロになってまで頑張ってくれたのに……」


いつもより饒舌なヴァレリアンが珍しく笑顔を見せるが、やはりその顔はどこか辛そうではあった。


アルマの言葉が気になった私はヴァレリアンを注意深く観察する。すると確かに彼女がボロボロと言っている意味がよく分かった。

靴やズボンは泥だらけで、左手に持っている盾に関しては完全に壊れてしまっている。右腕に関してはここからでは確認しづらかったものの一筋の裂傷があり、少量ではあるものの血を垂れ流していた。

カリーノとヴァレリアンが無事なのも、彼がその強靭な精神力で耐え凌いだ結果なのだろう。


「え~、あたしもすっごくすっごーく頑張ったんだよぉ?」

「そうだよね。よく頑張ったね、カリーノ」

「……えへへぇ」


拗ねるカリーノの頭をアルマが撫でると、彼女の機嫌はコロッと直ってしまう。

そんな彼女たちのやり取りを眺めていると私の足元にコウカがいることに気付き、一度しゃがみ込んでから抱き上げる。

……うん、一回り大きくなったことにより、片手で持とうとすると落としてしまいそうなサイズになった。まあ、両手だとすっぽりと収まるサイズなので問題はない。

不意にコウカがどこかソワソワしているように見えた。もしかして、あの光景を見たからだろうか。

私はコウカを左手と自分の胸で支えるような形で抱え、右手でその体を撫でる。


「おかえりコウカ、よく頑張ったね」


何度も撫でながらコウカを労る。

コウカからはとても満足してくれているような気配が伝わってきた。


困難も去り、そんな和やかな一時を過ごしていた私たち。ここからあと少し歩けば、指定されたゴール地点に辿り着くだろう。

今日は本当に大変な1日だったが、もうすぐ全て終わるはずだ。

――そう思っていた。


アルマがカリーノの手を引いて起こそうとした時だった。

錯覚だと勘違いしてしまいそうなほどに小さいものではあるが、地面が微かに揺れたのだ。


「何……?」


また揺れる、揺れる、揺れる。

少しずつ大きくなっていく揺れ、それはまるで何かが近付いてきているようで――。


「嘘だろう……どうしてオーガジェネラルが……!?」

「オーガジェネラル……?」


誰かの声がの名前を呼ぶ。


私たちの視線の先には黒いオーガが居た。

それは先ほど戦った2体のオーガよりもさらに1メートルほど大きく、ギラついた血のように赤い目が強く印象に残る。

――何? この気持ち悪い感じ……。

何が原因かは分からないが私はその魔物を見て、他の魔物からは感じられなかった忌避感を覚える。


「こんなの依頼どころじゃない。全員撤退するよ!」


強敵を前にしたアルマの判断は早かった。今回は全員分断されていないため、迷わず撤退を選べたのだろう。オーガジェネラルがオーガと比べて鈍足であることも大きい。

私たち4人と1匹は全速力でオーガジェネラルから離れようとする。

――だが、逃げられない。

私たちの目の前に突如、大きな岩の壁が現れたのだ。

いや、目の前だけじゃない。岩の壁は私たちとオーガジェネラルを大きく囲うように立ちはだかっていた。


「これはっ!?」

「そんなっ、地属性魔法!? それもこんな高度な魔法を!」


私とアルマの驚いた声がほぼ同時に響き渡る。

オーガジェネラルはその顔に醜悪な笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。

そこで確信する。

オーガジェネラルは走れないのではない。きっと急いで追う必要がなかっただけなのだろう。完全に逃げ道を塞がれた私たちは袋の鼠ということだ。

じりじりと私たちとオーガジェネラルの距離が縮まっていく。この状況を先に打ち破ろうとしたのはカリーノだ。


「【ダーク・カッター】!」


カリーノが放った三日月の形をした魔法はオーガジェネラルに勢いよくぶつかり、一瞬オーガジェネラルの歩みが止まった。

だが――。


「うそっ、効いてない!?」

「だったら今度は……コウカ!」


傷もなく、平然と歩みを再開するオーガジェネラルにカリーノが驚愕した声を上げる中、私はコウカに魔法で攻撃してもらうようにお願いする。

コウカの魔法によって、ただのオーガなら倒すことができた。上位種であるオーガジェネラルといえども、無傷ではいられないだろう。


私の腕の中から飛び降りて地面に着地すると同時に、コウカが体に稲妻を走らせる。そしてその体の前方へと集まった稲妻により電気の塊が形成された。

そこから幾重にも枝分かれした稲妻は辺り一帯を眩く照らし、オーガジェネラルへと吸い込まれるようにして伸びていく。

幾度かの点滅を繰り返した後、次第に光が収まり、私はオーガジェネラルの姿を確認しようとして――瞠目する。


オーガジェネラルは立っていた。

体に少しだけ傷はついているが、体から煙を立ち昇らせながらも立っていたのだ。


「そんなっ」

「オーガを倒せた魔法がほとんど通らないなんてありえない! オーガジェネラルといってもせいぜいBランクだろう!」


ここにいる誰もが目の前の光景を受け入れることができない。

アルマの言葉は尤もだ。オーガと1ランクしか変わらない魔物のはずなのに、最初のオーガを一撃で倒した魔法がほとんど効かなかったのだから。


「くっ、逃げられないなら戦うしかないじゃないか! ヴァル、僕が前に出るからカリーノとユウヒを頼むよ!」


状況を打開しようとアルマが左手と治った右手に剣を持ち、オーガジェネラルへと突撃する。

彼女自身、普通に戦っても勝ち目がないことは分かっているだろう。だが彼女の後ろにはカリーノだっている。大切な妹を守るためにアルマは身を削っているのだ。

アルマはオーガジェネラルの近くを動き回ることで相手の剣戟を躱しつつ、時折反撃を打ち込むが効果はない。

オーガにも通らなかったのだ、その上位種には到底届かない。


何も手がないのかと絶望しかけた時だった。コウカが魔力を高めつつ、私に意思を伝えてくる。

――それしか方法がないのなら、それに賭けるしかないじゃないか。


「みんな、コウカが大技を使うよ! 敵をコウカの正面で足止めして!」


私もコウカがどんな魔法を使うのかは分からないが、コウカから伝わってきたのはこれだけだ。

正直、無茶な話だと思う。攻撃が通じない相手を足止めするなんて、普通に考えたら不可能だ。


「いつまで足止めすればいい!」

「分からないけど、すぐには無理!」

「ははっ。上等!」


だがアルマはコウカに賭けてくれるようだ。できるだけ早くコウカの準備が完了するように祈るしかない。

盾が壊れ、怪我をしているヴァレリアンの顔が悔しそうに歪む。何もできない自分に歯痒い思いをしているのだろう。

一方でカリーノは目を瞑り、コウカのように魔力を高めている。弱い魔法をいくら放っても効果がないという判断か。

そして前方のアルマの戦い方にも変化が生じる。先程までは避けることを優先していたが積極的に顔を狙う戦い方へと変わったのだ。リスクを高めても足止め役に徹してくれるということだろう。

――しかし、それも新たな絶望を生む。


「もらったッ!」


アルマが一瞬の隙を突いて、オーガジェネラルの目に狙いを定めた斬撃を放つ。

すでに眼前まで迫っていたその攻撃。それをオーガジェネラルは目を瞑り――瞼で防いだ。


「バカなッ……ぐあっ」


動揺したアルマに敵の剣が迫る。

彼女は咄嗟にそれを自らの剣で防ごうとするが、彼女の左手に持っていた剣がオーガジェネラルの攻撃に耐えられず、折れてしまった。


ここでコウカの内側で圧縮され続けている魔力が大幅に増加する。

オーガジェネラルもそれを感じ取ったのか、コウカをまっすぐと見つめてその口元を歪めた。

――まずい、狙われている!

ここでコウカの攻撃が失敗すれば、私たちに希望はない。


「させるかぁっ!」


アルマが吼えると同時に、吹きすさぶ風が彼女の持つ剣に巻きつくようにして集まっていく。

彼女はオーガジェネラルに飛び掛かり、その剣を顔面目掛けて振るった。


「バカっ、あいつ!」


それと同時にヴァレリアンがオーガジェネラルへ向かって駆けだした。

アルマの攻撃は先程と同じく目を狙ったものだ。オーガジェネラルは瞬時に片目を瞑り、防ごうとするが今度の攻撃はそれだけで防ぎきれるものではなかった。

瞼に弾かれると思ったアルマの攻撃が当たった時、オーガジェネラルの目から血が噴き出し、苦しそうな叫び声をあげる。

有効なダメージを与えたアルマだが剣を振り切った時、剣に振り回されるようにバランスを崩してしまっていた。

そこに苦し紛れに振られたオーガジェネラルの剣が命中しそうになる。


「うおぉぉッ!」


しかし、それは直撃する寸前でヴァレリアンがアルマを目掛けて飛び込むことで回避できた。ヴァレリアンと彼に抱えられたアルマが地面へと倒れ込む。

一撃目は避けられたが、まだ安心してはいられない。

傷を付けられたことで怒ったオーガジェネラルが起き上がれないヴァレリアンとアルマに向かって剣を振り下ろそうとしている。

それを救ったのは、紫色の光柱だ


「【ダークネス・レイ】!」


カリーノが放った魔法はオーガジェネラル本体ではなく、その足元を抉る。

一見外したように見えるが、そうではなかった。足場を崩されたオーガジェネラルが体勢を崩したのだ。


――その時、コウカの魔力の高まりが最高潮に達する。


「みんな伏せて!」


私が言い終わるか否かといった瞬間には、解き放たれた雷光が轟音と共に森の中を駆け抜けていた。

次の瞬間、私たちの体は土煙に飲み込まれる。




「――げほっ、げほっ」


辺りに立ち込めているひどい土煙を吸い込み、咳込んでしまう。だが1分としないうちに、次第に視界が晴れてくるようになった。

周囲を見渡してみると私の近くではカリーノがフードを被り、地面に伏せている。

あの2人もアルマの上にヴァレリアンが覆いかぶさるような形で無事を確認できた。

そうなると安否が不明なのは、雷光を纏わせた突撃技によって敵にまっすぐ突っ込んでいってしまったコウカだけとなってしまう。


「コウカ……! ぁ、オーガジェネラルが……」


近くに居なかったコウカを探しているとオーガジェネラルを見つけた。……いや、それらしきものだが。

真ん中に大きな丸い穴を空けたその物体は真っ黒に焦げていたのだ。しかし、その周りからコウカは見つからない。

あの攻撃で魔力を使い過ぎたせいで消えてしまったなどといったことはあり得ないだろう。こうして私に魔力が残っているのだから。


コウカの気配に集中しながら探していく――と遂にあの子を見つけることができた。

コウカはオーガジェネラルが焦げていた先で木を数本折り倒し、それでも止まらずに傾斜に埋まっていた。

無茶をしたことを怒ればいいのか、どうするべきなのかは分からないが今だけはこの子のことを唯々褒めてあげたいと思った。

七重のハーモニクス ~異世界で救世主のスライムマスターになりました~

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