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幼女たちを買い取ってから、三ヶ月が経った。
栄養状態は回復したものの、いくつか問題が出てきた。
「おい、よこせよ」
「うう」
ベルッティはよくミーシャが手にした物を奪おうとするのだ。
ミーシャは気が弱いため、怒りもせずにすぐ渡してしまう。
抵抗しないところが余計にベルッティの気に障るらしく、何を奪ってもベルッティの機嫌は治らない。
端的に言えば、いじめである。
ベルッティは狡猾にも、ハガネを利用して暴力に訴えることもある。
こうなればミーシャに勝ち目はない。
涙目でイリスや他の奴隷を頼ろうとするが、ベルッティは叱られたところで形だけ反省するだけで、あらためない。
現代日本の学校であれば、ミーシャは不登校になっているところだろう。
面白いのがベルッティは文字が読めるわけでも、力が強いわけでもないことだ。
しかし、文字が読めるミーシャや、力の強いハガネがベルッティに支配されている。
実に見所があると言えよう。
これが学校教育であれば、ベルッティの歪みを治療しミーシャが健やかに過ごせるようとり図るべきだが、ここは教育機関ではない。
オレはベルッティをさらに歪ませ、ミーシャを売り払うことにした。
「えっ わたし。売られちゃうんですか!?」
「ああ、とてもいいところだよ」
ベルッティに散々いじめられてもミーシャはここが好きだったらしい。
だが、口を尖らせたってダメだ。
お前は奴隷だという事を忘れてはいけない。
出発は明日だと伝えると、それなりにショックを受けたようだが、それでもミーシャはこれまで世話になった他の奴隷達に挨拶をして回った。
人間ができている。
こと社交性においてミーシャはハガネやベルッティをゆうに超えている。
その上、文字まで読めるのだ。
「おばさん、これまでお世話になりました」
「うんー。向こうでも元気でなー」
炊事場の奴隷と別れの挨拶を交わしている。
なんと素晴らしきことか。
まだ10にもならぬ幼女が誰に言われることも無く、礼儀をわきまえている。
これほどの価値を持ったミーシャがゼゲルに使い潰されそうになっていたことを思うと、無性に腹が立ってくる。
おのれゼゲル。
奴隷を何だと思っている。
貴様にやる奴隷はない!!
うちの商会の連中には売らせないし、帝都の外で買って来るようなら聖堂騎士団を利用して、すぐに取り上げてやるからな!!
突然、天を仰いでブチギレたオレを奴隷達が見るが誰も気にしない。
オレは生前から怒りっぽいタチで、よくこうなるのだ。
いきなり怒りがこみ上げてくるのだから仕方ない。
「アーカードさん、こちら決算書です」
「よし、ルーニー。見せてみろ」
瞬時に冷静になったオレは笑顔で決算書を受け取る。
「ほう、よくできているじゃないか」
冗談では無く。本当にしっかりしている。
オレはこのルーニーというお付き奴隷をよく連れ回し、特別扱いしている。
ルーニーは三ヶ月前に聖堂騎士団の異端審問室で命を張ってオレを守ろうとしたのだ、その功にはそぐう褒美を与えるのは当然のことだ。
当然のことを当然に成して行けば、自然と物事はうまくいくのだ。
「アーカードさん。イリスが第二宿舎に忍び込もうとしてます!」
水瓶を担いだ奴隷が指をさす先には「うひひ」と窓から侵入を試みるイリスがいた。
「おい、こらてめえ! イリス!! 勝手に夜這いするんじゃねえ!! また売り飛ばすぞ!!」
激怒し、冷静になり、そしてまた激怒する。
奴隷商人には不可欠な資質だ。
奴隷というのはまともな者たちばかりではない、中には下半身に脳を支配されているド変態ロリエルフもいれば、勝手に連続強姦殺人を起こすクズエルフもいる。
こうした脅威に対して瞬間的に怒号を飛ばせるようでなければ、奴隷商人は務まらない。
そういう意味で、ルーニーにはその資質がない。
ただ賢く優しいだけではダメなのだ。
「ルーニー」
「は、はい。何でしょうか」
かしこまるルーニーにオレは続ける。
「明日、ボウモアのやつにミーシャを渡しにいくんだが。ついでに一週間ほど滞在しようと思う」
「留守を頼むぞ」
オレの期待に応えられるか?
「はい、必ずやり遂げます!!」
いい返事だ。
いい返事だが、一瞬だけ視線がイリスの方へ向かっていた。
「ヤりたいんじゃあああああああ!! ヤりたいいいいいいい!!」
視線の先にいるのは夏の終わりのセミのように、地面の上でじたばたとするイリス。
ルーニーはイリスを止められるだろうか。
無理だな。
犯されるに決まっている。
「安心しろ、イリスは連れて行く」
「何かあったらすぐに知らせろ、第三魔法の面白い使い方を教えてやる」
オレが屋敷へ歩き出すとルーニーが後を追う。
第三奴隷魔法【聖痕よ来たれ《スティグマ》】は一般に広まっている奴隷魔法の最高位にあたる。
それを手ずから教えてもらえるのだ。
ルーニーよ。
オレが手放せなくなるほどの奴隷になるがいい。
期待しているぞ。