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《一華編》

1週間ほど前、体がとてもだるく、目線がぐらぐらと安定しないという異常が私、はじめはなに起きていた。

母親に体調不良を訴え、熱を測るとなんと40度近くある。血相を変えた母親を伴い病院へ向かうと、私はインフルエンザウイルスに感染していたことがわかった。薬を飲み、ベッドに押し込まれ、ようやく38度代にまで体温が回復したのは翌日の午後だった。

だから、今日は待ちに待った久しぶりの登校日だ。

足取りが弾む。

教室に入ると自分の席に荷物を置き、私は真っ先に仲のいい子たちの間に顔を出した。

「おはよう」

「…貴女、私たちの前によく顔が出せたわね」

しかし、私に返されたのは友達のブレのない睨みだった。

予想だにしていなかったこの展開に、私は思わず固まった。

「どういう、こと?」

「…っ、ほんとにわからないの?」

そうは言われても、私はしばらくの間彼女と会っていない。むしろ学校にも来れていないのだ。

だから私には彼女が何に対して怒っているのか検討もつかなかった。

気分は沈み、私の内心にはどんどんと焦りのようなものが生まれてくる。

「プレゼン」

友達は私になんの表情も映さない顔を向け、ボソリと一言そう言う。

そうだ、私が倒れた次の日。

その日に班で発表する予定だったプレゼンの場が設けられていたのだ。私が欠席したからいけなかったのだろうか。

「その日、休んじゃってごめん。でも、」

「は?」

私は、インフルエンザに感染しちゃったからどうしても行けなくて、と続けようとする。

だが、私の口はこの上ない冷たさを醸し出していた友達の発した1音によって完全に勢いを失いそのまま閉ざされてしまった。

クラス内も私たちのやり取りに注目しているようで、空間自体が静まり返っていた。

「私たちが、貴女がインフルで休んだから怒ってると思ってるの?」

「…」

これは完全に選択を間違えたようだ。

それならば何に怒っているのだろうと必死に考えるも、思い当たらない。

じわりと背中に冷や汗が伝う。

「は、…むしろなんで思い当たらないのか分からないんだけど」

彼女の口調の端々には、私に対する確かな怒りが含まれていた。

「貴女、プレゼンの資料、ずっと持ったままよね?」

「…はい」

私がぶっ倒れた翌日。

あの日私が彼女達から送られて来てた大量のメッセージに気がついたのは、プレゼンの授業が終わった後の午後だった。

必死にプレゼンのデータを転送して欲しいとのメッセージに、私は謝り倒したことを覚えている。

そういえばその時はあまり気にしてなかったが、そこからメッセージへの返答も途切れていたような気がする。

「でも、私ちゃんと謝って…」

バチンと、大きく音がした。

もしかしたら音はそこまで大きくなかったのかもしれない。でも、叩かれた私にとっては、その音は確かに大きく聞こえたのだ。

「もういい」

彼女はただ静かにそう言った。

そしてそれぞれが何も言わずに静かに席に戻る。

私はしばらく叩かれた頬を抑え、何も出来ずその場に立ち尽くしていた。

仲が良かった友達は誰も挨拶を返してくれない。まるでいないもののように扱われる、私のそんな日が始まった。

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