彼の隣の席になったのは運命の神様が意地悪なのかまたもや菜乃花ちゃんで、またかあとだるそうに話す彼女と歩きながら一抹の不安が胸を抉るような感覚に襲われていた。
二連続で一番前の席になった私の次の隣人は、まるで気遣いの擬人化と言っても過言ではないくらい人のよくできた景井という男子だった。うんうんと私の言うこと成すことに頷いてはくれるものの相手は何も意見してくれなくて、なんなんだろうと再び困っていた。
それよりも、遥か後方にいる彼と菜乃花ちゃんの楽しげな笑い声を聞くのが苦痛で堪らなかった。離れてから気づく、とは言うものだ。本当に席が遠くなってから好きだってことを知るなんて馬鹿じゃんと泣きそうになった。どうして彼は私と普通に会話しようとしてくれなかったのか。やっぱり嫌われていたんだと考える度に悲しかった。
文化祭や体育会の準備が始まり、団体行動というウォーキングのパフォーマンスという種目の練習で、彼と私が近くになった。嬉しい反面どことなく気まずい空気が伝わってきて、それでも相も変わらず菜乃花ちゃんとは楽しそうで、もう諦めようかなと思い始めていた。憧れ程度で、推しにするくらいで丁度よかったし、そうすれば変につらいこともないから。
そうして訪れた夏休みはすぐに明け、行事は順調に済んでいく。
文化祭の最終日に写真撮影の時間が設けられたのだが、私は声をかけることができなくていくじなしな自分が情けなくて泣いた。可愛くヘアアレンジをして行ったのに、動けないなら意味なんてない。
体育会の最後にもチャンスがあった。彼のグループが佇んでいた私に、撮ってくれない?と声を掛けてきた。五人の男子が肩を組んで、彼は真ん中にいた。現実と画面内の彼を何度も見た。スマートフォン越しに目が合っている気がして心臓がうるさかった。私は震えそうな腕でボタンを押した。ありがとうございますと軽く礼をする彼の裾を引いて撮ろうよの四文字を言えばよかったのに、それも駄目だった。
通常の授業が再開して、嫌いになりそうな笑い声を気にしながら、もう想うのはやめようと思いながら、それでも淡いけれど彼に恋をしていた。さすがに認めざるを得なくて、でも希望も進展もない恋にすっかり絶望していた。
誕生日前日に某ユニットから新曲があげられて、それが嬉しくてストーリーに載せたら、数分でハートマークの通知が来た。彼からだった。バスを降りて歩きながら、マスクの下でにやけまくっていた。こんなことで一喜一憂していた私が可愛すぎるし、まあ別に今も変わっていないけれど、恋をした乙女の情緒ってすごいと思う。
友達と昼食を食べた日の投稿にもプリクラの投稿にも反応が来た。だからこそ好きになるのが止められなかった。
転機は十月後半の、とある女の子と遊んだ二日後だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!