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※このお話は、長編モノの途中になります。
※第一話の注意事項を熟読したうえ、内容に了承いただけた方のみ、先にお進みください。
※途中、気分が悪くなった方は、即座にブラウザバックなさることをオススメします。
【注意】
年齢捏造
※grem→大学生(20くらい)。zm→10歳くらい。tnrbr→10代後半かそれ以上。
※オリキャラ出ています。
わんくっしょん
「…………ん……?」
エーミールが目を覚ますと、柔らかいベッドの上だった。寝ぼけ半分に毛布の心地よさを噛みしめながら寝返りを打つと、そこには見覚えのある茶色く日焼けした髪の毛の小さな頭。
「ん?」
エーミールは非常にイヤな予感がして、毛布の中の自分の姿を見た。ギプスと湿布以外、エーミールを纏う服はない。
「んっん~…?」
恐る恐るもう一度、隣にいる人物らしきモノに目を遣る。
やはりゾムだった。
幸せそうな顔をして寝てはいるが、その身体には案の定、一糸纏うこともなかった。
「ん”」
喉から変な音が鳴る。
エーミールの顔色が一気に青くなった。
いやいやいやいや。
記憶にない。記憶にない。
改めてエーミールは自分の身体を確認する。怪我の感覚こそあれど、尻にも性器にも、行為の感覚はない。はず。
私は無実だ。
だが、この状況で、誰がそれを信じる?自分だって、自身の潔白が信じられないというのに。
エーミールの脳内が、忙しく逡巡を繰り返していると、ゾムが唸りながら寝返りを何度も打った。
「んん…?エーミール…?」
寝ぼけ眼で目を擦ると、ぼんやりした視界の先に、エーミールの姿。
ゾムは安堵した笑みを浮かべたが、エーミールの方は笑ってはいたが若干引きつっているような顔をしており。
「お、おはようございます、ゾム君…」
「……どした?」
ゾムはもう一度目を擦り身体を起こすと、自身の身体の異変に気付いた。
「なんで俺、裸なん?」
エーミールは喉から心臓が飛び出そうになるほど、驚愕した。
ゾムは改めてエーミールを見遣ると、身体に毛布を纏わせてはいるが、隙間からはエーミールの白い肌の色が見えていた。
「エーミール…?」
「あ、あの。こっ、これは、その…」
状況を説明しようにも言い訳をしようにも、エーミール自身が何が起こったのか理解していない。
「エーミール…?」
「ちゃ、ちゃいますちゃいます。これは、その、えっと…」
「エーミール…。ケッコン、しよ?」
「はぁッ!?」
ゾムの突飛な告白に、エーミールの思考が追い付かない。
「ちゅーもしたし、記憶ないけどセックスもしたやろ?もう実質、ケッコンやん、これ」
「いやいやいやいや。落ち着いて、ゾム君。まずは状況確認しましょう?ね?」
早急にコトに及ぼうとするゾムを必死に左手だけで抑え、エーミールはまずは周囲を見回した。
整えられた調度品と掃除の行き届いた部屋に、エーミールとゾムが一緒に寝てもかなりの余裕がある大きなベッド。毛布もシーツもかなり上等なものが使われてる。どこかの高級ホテルであることは、間違いはない。
次に記憶がなくなる前までの経緯を思い出す。
グルッペンの追撃からの撤退。ハンスと尾上に拾われ、エーミールは病院へ。それから尾上に回収され…
その後の記憶が一切ない。
男二人。裸同士。一緒のベッドで寝ていて、何も起きないはずもなく。
「…………」
「エーミールー。ケッコンしよ、ケッコン」
「ゾム君。あなた、結婚の意味、わかって言ってます?」
「ケッコンしたら、エッチなコトしてもええんやろ?」
「思考が短絡的すぎるわッ、このエロガキ!」
そう言ってゾムを叱りつけ、ベッドサイドにおいてあったバスローブに手を伸ばした時、一枚の紙切れがベッドの脇に舞い落ちた。
「……何や?」
エーミールが紙に手を伸ばすと、丁寧な文字で書かれた置き手紙。
”エーミール様もゾム様も、大変お疲れのご様子でしたので、ベッドでお休みいただきました。
お二方のお召し物もかなり汚れておりましたので、クリーニングしております。替えのお召し物は、現在調達中です。
尾上さんは食料の調達に行っておりますので、夕食はご期待くださいませ。”
手紙を読み終わったエーミールは、心底ほっとしたようなでかいため息を吐いた。
「私達が眠ってしまった合間に、ハンスさん達が服を洗濯してくれているようです。その間、私達はずーっと寝てただけですよ」
「ほな、今からえっちしよ?」
「しません。尾上さんが、ご馳走作っている言うてますから、そない暇、ありませんよ」
「あのおっちゃんのメシ、食えるんか?!」
「え、ええ。そうみたいです…」
ゾムの食い付きの良さに、エーミールはビックリしたが、内心胸を撫で下ろした。
所詮は子供か。
やはり色気よりも食い気なのだ。
エーミールはバスローブに身をつつむと、壁に手をつきながら立ち上がった。
「どこ行くねん」
「トイレ行ってきます。そのままシャワー浴びようかと」
「そんくらい言えや。まだ足痛むんやろ?支えたるわ」
「ありがとうございます」
ゾムの肩を借りバスルームに向かいながら、エーミールは思った。
ゾム君にもバスローブくらい着せないとな。と。
交代でトイレを済ませた後、エーミールはゾムの腕を掴んでバスタブへと連れ込んだ。
さすがに泥だらけホコリだらけなのは、エーミールには我慢ならなかった。不幸中の幸いというか、お互い服も着てない裸同士と割り切り、一緒のバスタブに入る。
「一緒に風呂入るんやったら、えっちしたってええやん」
「それはそれ、これはこれ、です。アカンもんはアカン。そもそも子供相手に…」
「Oのオッサンなんて、よく俺の前でおばはんとセックスしとったで」
「え?」
ゾムの頭を洗っていたエーミールの手が止まる。
「Oは知っとんのやろ?たこ焼きのおっちゃんが、俺のこと『六弦』言うてたで」
「……申し訳ありません。調べさせていただきました」
「わかっとる思うが、Oとおばはん殺ったんは、俺や」
「…お湯かけます。目ェ瞑っといてください」
「ん」
ゾムが目を閉じると、エーミールがシャワーを出してゾムの頭の泡を洗い流した。
「…グルッペンの命令ですか?」
「いや。そんときはまだ、俺らのボスは別のヤツやった。交代したんは多分、俺が逃げてからやろな。遠目で見ただけやけど、トントンとロボロが、アイツに付き従ってたん見て、察したわ」
「そうでしたか…」
「Oは気に食わんことあったり機嫌悪いと、俺やおばはんをすぐ殴る蹴るするようなクズやったけど、機嫌ええと飯食いに連れてってくれたし、一緒にゲームしたりで、まあ…そこそこ楽しかったんや」
「あと、ガキは学校行って勉強せぇ言うて、学校行けるよう手続きもしてくれとった」
「……身体洗いますね。学校は行ったんですか?」
「いや。学校行くん決まった時に、暗殺決行の命令が来た。殺ったんは、その日の夜や」
「命令通り仕事したのに、何か虫酸走った。メッチャイヤやった。戻れ言われたけど、戻りとうなかった」
「……それからずっと、独りで彼らと戦っていたのですか?」
「いつかは捕まるか殺されるかするかもしれん。けど、もうアイツらの言いなりになるんはイヤやった。なら、徹底的に、最後まで戦ったる。そう思ったけど」
「けど?」
「所詮は俺はガキやねん。なーんもできんし、なーんも知らん。力もない。追い詰められてきて、そのこと痛いほど身に沁みたわ」
「でも、諦めなかった」
「エーミールのおかげや」
「私が?私はなにも…」
「お好み焼き食わしてもろた。風呂入れてくれた。ベッドで寝かせてくれた。何より、火薬の扱い方とか教えてくれた」
「教わるん楽しい思えたんは、あれが初めてや」
「それに、俺の戦いに、道作ってくれた。これから一緒におれる思たら、メーッチャ嬉しくて」
振り返り満面の笑みを浮かべるゾムに、エーミールの胸にズキリと刺さるものがあった。
「そのことなのですが…」
意を決してエーミールが話を切りだそうとしたその時、部屋のドアが開いて何者かが入ってくる気配を感じた。
ゾムとエーミールはすぐさま周囲の音を止め、気配を探る。
気配は真っ直ぐにバスルームへと向かってきていた。ゾムはエーミールを背にして、タオルを両手で持ちピンと張り、前に立つ。
バスルームのドアをノックする音。
ゾムはハンドサインで、エーミールに待機するよう指示を出し、身体を屈めて構えを取った。
ドアが開いた。
ゾムが飛んだ。
「…エーミール様?」
ハンスの声。
「ゾム君ストップ!!」
エーミールの静止が遅かったというよりは、二人の行動が速すぎた。
持っていたタオルで相手の手を拘束し、膝で打撃を与えようとするゾムの動きも素早かったが、右手にタオルが巻き付くかというところで、ゾムの勢いを利用して投げに転じたハンスの動きの方が早かった。
投げ飛ばされたゾムは、何とか受け身を取って着地ができていた。
「なんや、じーちゃんやったんか」
「さすがでございますな、ゾム様。エーミール様をお守りしつつ、しっかりと敵の動きを把握しておられる」
嬉しそうに目を細めたハンスは、ゾムを抱き抱えてバスタブに連れ戻した。
「鍛え方次第で、良い傭兵にも護衛にもなるでしょうな。まずはお風呂の続きをどうぞ。お召し物のお洗濯は、完了しております」
「ありがとうございます、ハンスさん」
エーミールが礼を言うと、ハンスもまたにこやかな笑みを浮かべ、恭しい礼を取るとドアを閉めた。
「……エーミール、あのじーちゃん、何モンや?」
「正直……、私もよくわかりません」
思えば今になるまで付き従っている三人は、大概に得体の知れない人物ばかりだが、その中でもハンスは特筆して素性すらわかっていない。ただ、彼と対峙するには、自分はまだまだ未熟すぎると痛感することばかりだった。
ハンスがクリーニングに出してくれたお陰で、エーミールのスーツもゾムの服も、今朝までの汚れが嘘のようにキレイになっていた。
「それと、エーミール様には、こちらをご用意致しました」
「松葉杖ですか。これは助かります」
自分で歩けることにエーミールは喜んでいるようだったが、そんなエーミールにゾムは少し不満そうだった。
「歩きたかったら、俺が手伝ったるんに…」
「いつまでも頼るわけにも、いきませんからね」
「それって……」
ゾムが何か言おうとするところを、エーミールはハンスに話を振ることで遮った。
「そう言えば、尾上さんはいつ頃来ますか?」
「そうですね。さすがにここの厨房はお借り出来ませんでしたので、少しお時間はかかると思われますが、もうそろそろかと」
ハンスが懐中時計を取り出し時間を確認すると、すでに十五時を過ぎていた。
その時、部屋のドアをノックする音。
「どちら様でしょうか」
ハンスが応対すると、ドアの向こうから、やかましすぎるおっさんの声。
「おう!チビ達は起きたか?メシ作ってきてやったぜ」
ハンスがドアを開けると、押し車いっぱいの料理が運ばれてきた。
美味しそうな匂いは部屋中に充満し、ゾムは目を輝かせ涎を垂らす。
「うまそ~…」
「はっはっはっ。だろう?久し振りにガチで腕振るってやったぜ!」
「では、エーミール様もゾム様も、お腹が空いたでしょうから、準備を整えましたら、食事にいたしましょう」
「やったー!腹ペコやったんや!」
食欲に釣られ喜ぶゾムを笑顔で見守るエーミールだったが、準備に動き回るハンスがエーミールの傍に近付くと、小さな声で囁いた。
「ゾム様にお話は」
「……すみません、まだ…」
「お伝えできないならば、私からお話いたしましょうか?」
「いえ。私から伝えます」
「なるべくお早めにお願いいたしますよ?」
「……準備のお手伝いします」
忙しなく動くハンスの隙間を縫って、エーミールもカトラリーのを並べるなど手伝いを始めた。
【SCENE 19 に続く】