隣に座る想い人からもらったメモを丁寧に折りたたんでペンケースにしまう。
いつだっけ。俺が彼を知ったのは。
『その雑誌面白いっすよね、俺もよく読んでます』
多分……いや、きっとあの時だ。
一年前、図書室でテキトーに手に取った雑誌を眺めてた時、彼に声をかけられた。
『え、あっ、』
『あ、ごめん。急になんだよって感じよな!』
焦った彼に俺も焦って返した。
『あ、いやっ、びっくりはしたけど……。お、俺もこの雑誌、好きです』
にっと笑顔になった彼は「同士やな」と笑って出ていった。
それから俺は気づけば彼を探すようになった。
彼を見つけられなかった日にはどうにも息がしにくくて苦しくなった。
その半年後。今から半年前ぐらいに、やっと直接彼と接することができた。
『坂田、明……』
その時初めて彼の名前を知った。
『あの、坂田明さん、ですか?』
勇気を出して目の前を歩く赤髪の想い人に声をかけた。
『え、?』
キョトンと振り返った彼に、胸が押しつぶされそうになる。
『あ、あの、これ、落としてましたよ』
『あ、ありがとう、ございます……』
『いえいえ、気をつけてくださいね』
ドキドキする心臓を無視して精一杯、自然な笑顔を坂田に向けた。
『あの、名前はっ?』
恥ずかしさで逃げようとした時、坂田に呼び止められた。
『え、名前?』
『あ、いやっ、拾ってくれたし、お礼したいし……』
なんだ、そっか。
心の中で小さくショックを受けて笑顔を向ける。
『お礼?別に大丈夫ですよ。あ、浦田わたるって、言います……』
『浦田、わたる……』
そう呟いた坂田の頬が心做しかほんのり色づいてるような気がして……。
『はいっ、!あ、俺今日早く帰んないといけないんでっ、。じゃ、じゃあまた……坂田』
にやける顔を隠すために、その場から走って逃げた。
次の日から、朝に坂田と会うことが増えた。
もしかして俺に会うために早く来てる……?
なんて都合のいい勘違いをしてみたりして。
『なぁ、坂田何聴いてんの?』
『ん?えっとなぁ』
仲良くなって距離が縮むと、坂田がいつも聴いてる曲をダウンロードして聴いた。
坂田、俺今でもあの曲聴いてるんだよ。
一緒に帰りたいと素直に言えないから帰る時間を合わせたり、わざと廊下ですれ違ったりもした。
だってそうすると坂田、必ず声掛けてくれるから。
「うらさんなに考えてんの?てか、いつまで教科書開いてんの?もう授業終わってるで」
「へ?」
「何考えたらそんなニタニタできんねん」「え、あっ、に、ニタニタなんてしてねぇし!それに授業終わってんのも知ってるしっ!」
お前のこと考えてましたなんて口が裂けても言えねぇよ!
「絶対変なこと考えてたやん!」
あははと楽しそうに笑う坂田に、胸がきゅうっと音を立てて締め付けられる。
「坂田、」
名前が呼びたくて。
「ん?なぁに、うらたん」
こてんと首を傾げて笑う坂田のほっぺたをつまむ。
「ちょ、うりゃしゃん、いひゃい、」
パッと離してやると「うらさん今のむっちゃ痛いで」と言ってまた笑う。
「……その笑顔」
「え?」
「その笑顔、誰にも見せないで……」
言うつもりのなかった言葉が自然と口からこぼれた。
「え、なんで?」
恥ずかしくなって、戸惑う坂田のほっぺたをもう一度つまむ。
「や、やからぁ!痛いんやってばぁうらさん!」
こんなんただのダサい嫉妬じゃん。
どうしよ……今ので坂田にキモがられたら……避けられたら……。
「もう!いったいなぁ……。ほっぺた痛かったから、ジュース1本奢ってや」
ぷりぷりしながら俺の後ろに回り込んで背中に体重を預けて俺の目の前で手をプラプラさせる坂田。
「え、あっ、ごめん……」
「もー、そんな顔しんといて。ジュース奢るだけやで?」
「あ、ちがっ、あの……さっ、さっきの……」
「あぁ、笑顔の?それなら大丈夫。言われんでもあんな笑顔うらさん以外に向けへんで。ほら自販着行こ〜」
そうやってすぐ許してくれるところが好き。
優しくしてくれるところが好き。
甘やかしてくれるところが好き。
そして、そうやってすぐ勘違いしちゃうような発言をするところも、全部好き。
坂田の、全部が好き。
そう思えるほどに坂田に夢中になってる。
緑中心だった俺の持ち物に、坂田の好きな赤が増えた。今までだったら読まないような、坂田好みの漫画を読むようになった。今までは聴かなかった曲を聴くようになった。
気がつけば俺は、坂田そのものに染まっていた。
「うらさん何考えてんの〜?ほらはよ動いてや〜!」
坂田、今までの誰よりも俺は坂田のことが好きだよ。
後ろでブーブー言う坂田の手首ををぎゅっと握って笑顔を向けた。
「100円のにしろよ!」
「えぇ〜なんでよ!150円のがいい!」
いつか、この好きって気持ちが坂田に届くといいな。
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