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🗒副会長・北条道隆

「やるわよ!いじめゼロ運動!」

生徒会長・古林令羅

がパイプ椅子を突き飛ばしながら突然起立した。狭い生徒会室の中に壁にパイプ椅子がぶつかって倒れる鈍い音がこだまする。

「古林先輩、そんなこと言って……いじめゼロとかどの学校でも取り組んでるけどうまくいってないよ。」

一年生徒会議員、矢辺小華(やなべこはな)がそう言った。

「先輩にタメ語とは何事よ。殺すわよ。」

当時現役バリバリの毒舌で、令羅は彼女を罵倒する。生徒会室ではこの令嬢、リミッターというものがなくなっているのだ。

「だって生徒会で決めた、”タメ語で話そう推進運動”を守ってるだけだもん!ね、北条先輩♪」

矢辺がこちらに話を振ってきた。これは面倒だ。令羅に反論すればどうなるか分かったもんじゃない。

「あ、ハイ」

生返事をすると、どちらからも冷たい目線が注がれる。

「あ、あのえーっと。」

令羅がこちらを睨んでいる。言わなくても伝わってくる。これはいつものセリフ「殺すわよ」のサインである。

「いじめゼロなんて、簡単でしょ?」

令羅……何をさせるつもりだ。

「校内の全教室・廊下に死角がなくなるようにカメラを設置する。また、生徒のスマートフォンは生徒会が全て調べる。」

「古林さん、カメラを設置なんて、学校では難しいよ。」

そう言ったのは二年生徒会副理事長の田山慎二だ。

「難しい?どこが?」

令羅嬢には、現実というやつが見えていないらしい。

「そもそも、それでもそういった対策をかいくぐる人もいるんじゃないかな。」

私がそう言うと、令羅は「まあそうか……」と言った。

「じゃあいいわ、わたくしの金でやるから。」

何を言い出す。

「お金の問題じゃなくてプライバシーの問題。レイラちゃん。」

ガラガラガラと生徒会室の扉が開き、担当の先生が入ってきた。

「あ、遠藤先生。」

生徒会担当の遠藤まゆみ先生である。

「すみません、でも苦しんでいる人がいると思うとつい。」

ドS令嬢は、先生の前ではおとなしい。

「今回の仕事は風紀委員会さんに任せるわ。一年桃畑魅麗、二年碧波琉奏、三年螺鈿占星歌、各学年を頼むわ。」

見れば、突然起立したやつがもう一人いた。

風紀委員会副委員長二年の碧波琉奏だ。

「はぁ?本部でやってもらえない?」

この碧波は、容姿端麗スポーツ万能な優等生でありながら暴力事件ばかりを起こし、しばしば呼び出しを喰らう問題児だ。

「なんですって、碧波、身の程を弁えなさい。貴方は私の言うことを聞いていれば良いのよ。」

生徒会長・古林令羅も負けじと言い返す。

「あ、遠藤先生、生徒会長が怖いです」

そう言って立ち上がったのは

一年風紀委員会副委員長・桃畑魅麗だ。

「生徒会長、そんな強く後輩に命令しないであげて。」

古林生徒会長が初めてボロを見せたので、耐えきれず俺は失笑した。

「北条副会長、笑ってる場合ですか?生徒会長を補佐するのが貴方の役目でしょう?」

そう小声で一年風紀委員会副委員長・桃畑魅麗、ちくった本人が言った。仕方なしに俺は一応声をかけた。

「生徒会長!大丈夫ですか!」

遠藤先生が出て行った生徒会室に、俺の声が響き渡る。

「あら、気が効くじゃない。」

気が効くのはあのうるさい小娘だ、と言いたくなるが、言うなとでも言いたげに彼女が見ていたので、何も言わない。





⛩二年風紀委員会副委員長・碧波琉奏


「会長、なんだい、御呼び出しってことは何か用があるんだろ?」

僕はそう問うた。

「ええ。碧波、今、わたくしはものすごく疲れているの。だから素直に聴いて頂戴?」

相変わらず古林会長は、立ち居振る舞い言動に至ってもお嬢様だ。偉そうなので好きじゃない。一人で何もできないお金持ち以外の天賦も才能もない女、生きていて楽しいのかな、と思う。

「あのね碧波、風紀委員会さんに今回の仕事は任せるわ。内容はね、いじめの取り締まり。命をかけて当たりなさい。」

僕はいつものことだが、ため息をついた。

「生徒会に命をかける?僕は君の犬ではないんだけど。」

古林は、続けた。

「言うことをお聴きなさい。わたくしの犬じゃあないならあんたは野良犬よ。野良犬は排除されるのみ。大人しくリードを引かれていればいいのよ。」

相変わらず……だ。

「そこまで言わなくてもいいだろ。そもそも僕じゃなくて風紀委員会に任せるってことは、魅麗のやつも動員するのか?」

その事態だけは、避けたかった。一年生に、ここまでの苦しみを最初から与えたくなかった。

「魅麗?一年副委員長のうるさい小娘、桃畑魅麗のこと?当然じゃない。貴方が動かないなら彼女には

骨になるまで働いてもらうわ。」

表現が気に障った。

「……これ以上、やめてくれよ。」

この前に言われた体育祭の準備と毎朝の服装チェックで、僕らの心は荒みかかっていた。古林会長は、それを分かっていながらも僕らに重税を課すのだ。

「これくらい余裕でしょう?

“一億年に一人の天才”碧波琉奏君だもの。」

彼女は聞く耳を持たなかった。

「ああ、そうさ。どんな仕事でも、言ってくれ、一人でやる。螺鈿先輩も勉強で忙しいんだ。」

そう言うと

「本当?」

と、会長がたいそう嬉しそうにした。

「じゃあ一緒に行きましょう!」

古林の暖かい眼差しを浴びられるのは自分だけだということは分かるが、どうも面倒だ。まあ、それで二人が助かるならいいか、と彼女について行ったのだ。

彼女が普段あげない甲高い声を上げるたびに脳内で気色悪いと毒づきながら。

「あのさ、どこ行くの?何しに行ってるの?今。」

同じところを延々と回っている気がする。

「あら失敬。少し執事がお迎えに来るのを待っているの。」

それならば歩かなくてもいいだろうと思うが。

「今から約束があるから。行かなくちゃいけないんだよ。」

古林は、ため息をついた。

「あなた冷たいわね」

君には敵わないけどな、と心の中で毒づく。

「さあ行けば?そっちの方が大事なんでしょう?」

そりゃあそうだ。

「じゃ、失礼します、お構いなく!」

よし、これでOK!あとは、チャリ飛ばして行くかな!やっと解放された!




僕はすかさずすぐに喫茶店ミルフィーユへと向かった。

「先輩、おそいですよ」

見れば魅麗と螺鈿先輩が窓際の一席に腰掛けていた。

「さあ、会長との話し合いの結果早く報告お願いします。私仕事初めてなのでとても楽しみです!」

魅麗からそう言われると……なんと言おうか。

「ろくな仕事なわけないでしょ、あんたも

もうじき病むわよ」

螺鈿先輩が一瞬だけ顔を上げてそう言った。僕はひきつった笑みを浮かべてごまかした。

「螺鈿先輩!安心して。仕事は一人でやるよ。」

最高の作り笑顔で、僕は言った。

「あんた馬鹿じゃないの、わかってるの?あんた多分狙われてるのよ」

笑顔が、真顔へと変わっていく。魅麗が神妙そうに眺めていたのでもう一度不自然な笑顔を作り直す。口角が引きつっている。

「狙われてる?どこがだよ。」

螺鈿先輩は、なんで分からないのよと冷たい目で僕を一瞥《いちべつ》すると、諦めたように読書に戻った。

わかってるよ——そんなこと。

でもそんな理由で君らを危険に晒せと言うのか……?

「ほら、元気だからさ。元気があればなんでもできる!ってね。」

頭表情筋を無理やり動かして螺鈿先輩の目を覗き込むようにそう言うと、

「そりゃあそうだろうね。あんたは今まで学校休んでたものね。だからアタシの心は荒んでしまったのよ。」

と、冷笑を浮かべながら彼女は言った——体が冷え切るような心地がした。

「先輩……」

魅麗が不安そうにしながらパフェを食べている。

「螺鈿先輩は、今まで辛かったんだよ。学校休んでさぼってたやつがここにいるせいでね。だから、責任取らなきゃいけない。骨にでも犬にでもなんにでもならなきゃいけない。でも決して、君を傷つけたりはしたくない。見ていて酷なときは、すぐに逃げてほしい。」

とんだ、卑屈な野郎だ。引きこもってたせいでこんな人格になったのかな。

「私、やります!」

魅麗が、バニラアイスをすくったスプーンを高々とかかげて叫んだ。

「私に手伝わせてください!お供させてください!私、やります!」

螺鈿先輩が、ホットコーヒーをちびちびと飲んだのち、冷めた目で僕らを一瞥した。バニラアイスの破片がこぼれて螺鈿先輩の読んでいる参考書に落ちた。

螺鈿先輩は、大人っぽいハンカチーフをポケットから取り出すと、平然とした顔でバニラアイスを拭き取った。

「ごめんなさい」

魅麗が言ったが、螺鈿先輩は答えなかった。申し訳ないと思っている魅麗には、あまりに酷なお仕置きだった。笑顔のまま、血液が冷えて行くのを感じていた。魅麗の顔は青ざめていき、螺鈿先輩の目が怪しく光っていた——

とびたつ夜景に想いを馳せて

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