田舎の学校帰り、課題やテストだらけで、頭の中が真っ白だった私は、初めて帰り道を通り過ぎた。
自転車のブレーキをかけ、引き返そうとしたとき、奥の道から、太鼓や笛の混じった音が聞こえた。
だが、それは一瞬だった。
音に集中していたのか、目の前に大きな鳥居があることに遅れて気付いた。
それに、通ったことのない道なのに、なぜか心当たりがあるような風景だった。
鳥居の奥はどこまでも続いていて、薄暗い。
私は、無意識に自転車やカバンを置いて、鳥居を通っていた。
まぶたを閉じ、耳を澄ました。
数秒間の沈黙が流れた。
その瞬間、あの音が大きく流れ、私は驚きのあまり、尻餅を着いた。
竜巻のような風が起こり、まぶしい光が差し込む。
それはすぐに消えた。
だがあの音はまだ消えない。
それに、さっきよりずっと大きく鳴っている。
気が付くと、私は和室にいた。
私がいる和室は、虎の描かれた襖が部屋を囲んでいる。
すると、襖紙から小さな魚の影が見えた。
襖の先が気になった私は、正面の襖を開けた。
襖の先は、信じられないほど綺麗だ。
魚の群れがあちらこちらで泳いでいる。
だか、水はなく空気で泳いでいるのだ。
そして、全体の構造がとても変だ。
私のいる部屋以外、壁や襖が中途半端で、逆さの部屋もある。
橙色の光が全体を照らしている。
しばらく部屋から、景色を眺めていると、奥に人影が見えた。
その陰は音に合わせて、蝶のように舞いながら少しずつ近づいてくる。
すると、魚の群れは集まって人影の周りを囲む。
そして、姿が見えた。
赤と黒い着物を着ていて、片手には、扇子を持っている。
長く黒い髪を一つに結び、肌は白い。
身長は私より低めの女の子だ。
彼女はひらひら舞いながら、あっという間に近づき、ゆっくり私のほうを向く。
扇子から覗くように、黒い瞳を私に向けた。
その瞬間、またあの時の竜巻のような風とまぶしい光が差し込んだ。
思わず私は、まぶたを閉じた。
目が覚めると、私は、鳥居の前にいた。
音は消えていた。
私は、置いていたかばんを持って、すぐに自転車をこいで家に帰った。
帰っている途中、私は、鳥居だけではなく、あの音も、あの和室も、あの彼女も心当たりがあるような気がした。
辺りが夕日に染まる帰り道の出来事_