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テラーノベル(Teller Novel)

午後5時すぎ、大阪府佐渡真市

カタヅケ屋本舗事務所

渋谷大

お疲れーッス……

久留間悟

お、来た来た

久留間悟

渋の字お疲れー!

久留間悟

ヒドい顔してるじゃん、大丈夫ー?

渋谷大

……嬉しそうだなお前

久留間悟

えー?

久留間悟

そんなことないっしょー

渋谷大

ある

渋谷大

めっちゃキラキラした顔してる

久留間悟

おや失礼

久留間悟

根が素直なもんで

渋谷大

なにコイツ!

渋谷大

最低なんだけど!

渋谷大

……はぁ、疲れた

渋谷大

もうなんもしたくない

本田芙蓉

ほっほっ

本田芙蓉

人間、思いがけん事態に遭えばそうなってもおかしくはないのぉ

笑ったのはカタヅケ屋の代表

枯れ木のような姿の好々爺、本田芙蓉だった。

本田芙蓉

せっかく捻出した休みに、因果なものよ

本田芙蓉

くーちゃん、渋やんにコーヒー入れてやってくれ

久留間悟

はいよー

渋谷大

じっちゃん、俺もう死体見んのヤダ……

本田芙蓉

ほうじゃな

本田芙蓉

好き好んで見たがる奴はまともな者ではなかろう

久留間悟

幽霊見るよりキツいって気持ちは分かるけどねー

久留間悟

ほい、気遣い増し増しコーヒーおまち

渋谷大

……ん

黒々と濃いコーヒーに口をつけ、苦さに眉根を寄せる。

それをにこやかに眺め、本田は卓上に肘をついた。

本田芙蓉

さ、飲んだら報告を聞こうかの

本田芙蓉

これ以上被害が出んうちにな

久留間悟

念のため、最初の事件からおさらいしよっか

久留間悟

1件目は、大阪府笠野市の住宅地

久留間悟

50代男性の墜落死で、発見されたのは休日の真っ昼間

久留間悟

遺体の発見場所は、自宅からおよそ二キロも離れてる

久留間悟

最後の目撃情報ではこの人、屋根の雨漏りを直してたらしいんだけど

久留間悟

結構な音だったらしいよ

久留間悟

運悪くその瞬間を目にした人は、PTSDでカウンセリングに通ってる

渋谷大

2件目は京都の繁華街だな

渋谷大

被害者は市内の女子高生で、合コン帰りに墜落死

渋谷大

飲酒はしてなかったんだが、酒の匂いで陽気になっていたらしい

渋谷大

目撃者も多数いたが、犯人に繋がる証言はなし

渋谷大

なにより検死結果が、少なくとも150メートルからの落下

渋谷大

50メートル規制のある京都市内じゃ、この死に方はまず無理って話になった

本田芙蓉

そして、うちに持ち込まれたきっかけの3件目

本田芙蓉

被害者は滋賀の三輪湖にバス釣りに来ておった、二十代男性じゃな

本田芙蓉

夕方、他の釣り客の目の前に落下しておる

本田芙蓉

しかしこの件では、手がかりが残された

本田芙蓉

不幸にも第一発見者になった初老男性が、複数の笑い声を聞いたと証言しておるな

渋谷大

最初の聴取では聞き流されたけど、各事件の共通点を踏まえて見直されたんだな

久留間悟

150メートル以上の高さからの墜落死

久留間悟

とてもじゃないけど、人間に起こせる事件じゃないもんねー

本田芙蓉

そこから我らが山ちゃん、山野警視正に話がいき

本田芙蓉

ここに持ち込まれたわけじゃな

音を立てて資料が広げられる。

被害者の生前、現場の写真が添付されたそれから渋谷の目がそれた。

渋谷大

四六時中こんなもん見てりゃ、気も滅入るってもんだよな……

久留間悟

渋の字、ただでさえデスクワーク苦手だしねぇ

渋谷大

うるせぇ

それを微笑ましげに眺めた本田は、まぁまぁと窘めた。

本田芙蓉

しかし、第一発見者が身内におるのは正直かなり有力じゃな

本田芙蓉

渋やん、なんぞ気にかかることはなかったか

本田芙蓉

――ヒトならざるものの気配とか

渋谷大

んー

渋谷大

俺が見つけたのはしばらく経ってからっぽかったからなぁ……

渋谷大

笑い声とか、姿とか、そういうのは分かんなかったんだけどさ

渋谷大

残留思念はあったと思う

本田芙蓉

ほう

渋谷大

ムカつく感じ

渋谷大

自分以外の全部を見下してるっつーか

久留間悟

あー、ププーッ! ってされてるみたいな?

渋谷大

……その通りだけど、純粋にお前がムカつく

本田芙蓉

ふむ、周囲を見下しておるか

本田芙蓉

もう少し手がかりを見つけられれば、飛躍的に進みそうなんじゃが

本田芙蓉

これまで以上に資料を当たらねばならんな

渋谷大

うげ

久留間悟

マジで

本田芙蓉

ほっほっ!

本田芙蓉

そんなおおげさに嫌がらんでもええのに!

本田芙蓉

まぁなんにせよ、今日は渋やんも疲れておるじゃろうしな

本田芙蓉

明日から色々読みあさらねばならんし、今日は終業としようかの

渋谷大

あれ、じっちゃん優しい?

久留間悟

俺もいい? 俺も帰っていい?

本田芙蓉

もちろん

本田芙蓉

改めて仕事に取りかかるには遅いし、キリもよかろう

本田芙蓉

そのかわり、なにかあればすぐ連絡ぞ

渋谷大

りょうかーい!!

久留間悟

もちろんでーす!!

渋谷大

甘いもん!

渋谷大

甘いもん食いたい!!

渋谷大

付き合え悟!

久留間悟

あ、じゃあ駅前のカフェ行こう!

久留間悟

今の時間ならケーキバイキング間に合うし!

久留間悟

俺も甘味摂取したい!

ともに28歳を迎えた成人男子。

そうとは思えないはしゃいだ雰囲気で、騒がしく事務所を後にする。

それを本田はにこやかに見送った。

およそ30分後

久留間悟

今のスペシャルケーキはー

久留間悟

お、イチジクだって!

渋谷大

えー

渋谷大

あ、俺こっちがいい。ブドウのシフォ……ン

久留間悟

ん? 渋の字どうした?

黙った渋谷の目線を追って、久留間も前方を見る。

……

近隣にある有名女子高の制服を着た少女が、目的のカフェに入るところだった。

背後には、10人程度の半透明な影が連れ立っている。

久留間悟

うぉう

久留間悟

なんかヤバいのつれてんね、あの子

明らかによくない気配は、夕陽の中で彼女だけ翳らせていた。

久留間悟

――人助けの予感じゃない?

渋谷大

見て見ぬ振りするには物騒だしな

囁き合って、少女の後に入店し席につく。

チラリと盗み見る少女の周囲は、やはり不自然なまでに照明が瞬いていた。

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コメント

6

ユーザー
ユーザー

続きが楽しみ!つてもうでてるから見てくる三/ 🦍/

ユーザー

犯人が仲間だったら悲しいな…

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