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テラーノベル(Teller Novel)

はーなこーさんあーそーびましょ

そう言って私は2階女子トイレ奥から3番目の扉を叩く。  キシッと音がして扉が開いた。

でも、誰もいない。

扉を叩いたその勢いで開いただけか……

少しがっかりしながら中に入って洋式トイレに腰を下ろした。  今はお昼休みの真っ只中。  教室ではみんな仲の良い者同士が机を くっつけたりしてお弁当を広げているのだろう。

いただきまーす

花子さん

ここは食堂じゃないわよ。衛生面を考えてもお勧めしないわね

へぁわ! 

花子さん

ふふ、なにそれ?

ふいに耳元で聞こえた声に妙な叫び声をあげた。  気づくとすぐ横に黒いセーラー服を着たおかっぱ頭の女の子が立っていた。

花子さん

私も色んな叫び声をきいたけど、あなたのは中々個性的ね。ちょっと面白かったわ

あ、あ、あなたは誰?

花子さん

誰とはご挨拶ね。あなたが呼んだんでしょ?

じゃ、じゃあ。花子さん?

花子さん

ええ。その通り。私が花子よ、初めまして

ほ、本当にいたんだ

花子さん

あら、信じていなかったの?

小首をかしげながら花子さんは私の顔を覗き込むように見つめてきた。

えっと、それは……

花子さん

何か用があって呼び出したんじゃなかったのかしら

 用という程の用があったわけではない。 ただ、噂を聞いて半信半疑ながら試してみただけで……

花子さん

なんで、黙ってるのかしら? 
目の前で無視されるのって気分が良くはないわね

言ってる内容に比べて口調にそれほど非難の色は感じられない。  でも、大した用でもないのに呼び出したといったら 怒らせてしまうかもしれない。

………………

 いつもこうなのだ。人に何か言われても、 相手の気持ちを勝手に先読みして言葉が返せない。 怒らせないだろうか、傷つかないだろうか。 そしてそれによって自分が嫌われないだろうか。

結果として親しい友達もできず、いつも一人ぼっち。 お昼ごはんの時みんなが楽しくお喋りしている中を一人で食べるのがいたたまれなくなって、いつしか便所飯が当たり前になった。

そんな時たまたまみつけた学校の掲示板で花子さんの噂を目にした。  だから試してみたのだ。  人間の友達を作るのは難しい。お昼を一緒に食べられる相手も見つけられない。せめてお化けでもいいから傍にいてくれたら……。

花子さん

ねえ、どうしたのかしら。黙っていては分からないわよ

 花子さんはゆっくりと私の頬に右手を添える。

ひゃぇ……

それは想像以上に冷たく彼女がこの世ならざるものだということを 認識させるのに十分だった。ふいに怖くなる。

花子さん

んふふふ。あなたの上げる声面白いわ。もっと色々な声をあげるようにしてあげましょうか

その言葉の意味は更に恐怖を煽り私はシンプルにその言葉をひねり出す。

あ、あの。一緒にお弁当食べませんか

花子さん

私と?

言われてびっくりするような顔をする花子さん。

さっき、ここで物は食べない方がいいと警告もされている。  余計怒らせちゃうかもしれない。

花子さん

いいの?

は、はい! 勿論です

花子さん

そう。じゃあ、あなたがまず好きなものをたべなさいな

え? いいんですか

花子さん

ええ。その後私が食べさせてもらうわ

言って、私はおかずの卵焼きをパクリと口に入れる。 甘い出汁の味が口の中に広がった。

花子さん

じゃあ、私が次に頂くわね

はい。どうぞ

花子さん

むっちゅっ……ん……

 突然彼女は私の口に吸い付いてくる。

むごっ……。んんっ。な、なにを?

花子さん

私たちはね。こうすることで人の食べているものを身にするのよ

そ、そんな。ファ、ファーストキスだったのに

花子さん

んふふ、そうなだったのね。光栄に思ってもらっていいわ。続けてセカンドとサードも貰っちゃおうかしら

 彼女の言葉が終わると同時に私の右手が勝手に動き お弁当の中身を口に入れていく。  私の咀嚼し飲みこみ終わった途端に彼女が唇を重ねてくる。 それは中身を平らげるまで続いた。

花子さん

はー、中々美味しかったわ

そういう彼女に私は言葉を返せない。  その理由は先ほどのものとは異なっていた。  顔が火照っていて心臓がどきどきする。

花子さん

ありがとう。退屈しのぎに丁度良かったわ。何かお礼をしなきゃね

じゃ、じゃあ。お願いがあるんですけど

花子さん

なーに? できる事なら聞くわよ

また、お弁当を一緒に食べてくれませんか?

花子さん

あらあら、癖になっちゃったのかしら? そうね、それは良いけど。ここでは気が向かないわね。先ほど言った通り衛生面もよくないわよ

で、でも。ここでなければ呼び出せないですよね

花子さん

いえ。そんなことないわよ。妙な噂がたってるみたいだけど、私が現れるのはここだけじゃないいの。

え? だってあなたはトイレの花子さんでしょ

花子さん

いえ、違うわ。言ってるじゃない。私は扉があるところで呼ばれれば現れるの

そこで私は理解した。  彼女は『トイレの花子さん』ではない。  戸がある所にならどこでも現れる。

つ、つまりあなたは「戸入れの花子さん?」

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