コメント
5件
綾(りょう)
暑い。なぜか俺の鼓動は高鳴っていた。
颯人(はやと)
颯人もおそらく同じだろう。颯人の耳は、真っ赤になっていた。
幼稚園の頃から一緒にいれば分かる。
颯人は恥ずかしいことになると、すぐに耳が赤くなる。
それを俺は今感じた。
その時、駅の階段を降りて行く華の姿が見えた。
綾(りょう)
引き留めようと必死に叫んだ。
が、華には届かずに彼女はそそくさと降りて行く。
声が届かないなら電話だ。
プルルルル
出るのを待つも、その電話は華に拒否されてしまった。
北条(ほくじょう)
突然の突き放された気分に、綾は膝をついた。
颯人(はやと)
綾(りょう)
家に帰ってベッドに寝転がった。
ついため息が溢れた。
綾(りょう)
すると、腐加さんから連絡がきた。
腐加(くさか)
綾(りょう)
ガチャ
颯人(はやと)
腐加(くさか)
綾(りょう)
俺には腐加さんが歌うイメージはない。
どうなんだろうか…
颯人(はやと)
腐加(くさか)
綾(りょう)
腐加さんが入れたのは、「愛するあなたへ」という曲だった。
綾(りょう)
腐加さんの歌声は独特な地声に対し、すごく綺麗で透明感があり美しかった。
どこかで聞いたことのある声…
それは十年前に亡くなった母の声だった。
それに「愛するあなたへ」は、母が歌っていた曲だ。
十年前、母は久しぶりに休みを取れた。
ずっと仕事で疲れていただろうに、母は俺のわがままに付き合ってくれた。
その時に俺が行きたいと言ったのがカラオケだった。
歌を聞くのが大好きだった俺は、カラオケに行きたくて仕方無かった。
綾母
綾(りょう)
そして母は優しく笑って言った。
綾母
運転する母の横顔を見つめながら俺は言う。
綾(りょう)
綾母
綾(りょう)
綾母
俺はただ楽しみでずっと飛び跳ねていた。
綾母
綾(りょう)
綾母
その時に歌ったのが「愛するあなたへ」だった。
お母さんの歌声は、すごく綺麗で透明感があり美しかった。
綾(りょう)
綾母
お母さんがありがとうと言いかけたとき、火災報知器が鳴った。
綾母
お母さんと俺は手を繋ぎ出入口から出ようとするも、途中の廊下は火で塞がっていた。
すると突然お母さんの手が離れた。
綾(りょう)
お母さんは足がもつれ転んでしまっていた。
あっという間に俺とお母さんの間には大きな炎が燃えあがり、火の中にはお母さんだけが残されてしまった。
綾母
綾(りょう)
でもなかなか俺は非常口から出られなかった。
母と分かれてしまうのが怖かった。
綾(りょう)
その返事はなかった。
俺がカラオケに来たいなんて言わなければ、お母さんは今も元気に生きていたのかもしれない。
そんなわがまま言わなければよかったと、ただただ悔やんだ。
そんなことを思い出していると、頬には涙が伝っていた。
颯人(はやと)
腐加(くさか)
俺は、二人に全て話した。
颯人(はやと)
腐加(くさか)
俺は泣き疲れて眠ってしまったらしい。 また迷惑をかけてしまった… でも、なんだか軽くなった気がした。