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密室×ゲーム

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12

密室×ゲーム 第12話:伸ばした手の先に

♥

35

2024年01月10日

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トーマ

知っていただと?

アルラ

そうだ

アルラ

ぼ、ぼくは

アルラ

詩乃ちゃんのことも

アルラ

お、お前のことも知ってる

トーマ

どういうことだ

アルラ

お前は

アルラ

気づいていなかっただろう

アルラ

でも

アルラ

ぼくは全部をわかっていた

トーマ

それって

進次郎

よし、アルラ

進次郎

お前の話を始めろ

アルラ

ぼくは

アルラ

ぼく、は…

ぼくは

資産家である父と 母の間に生まれた

ひとりっ子だった

両親は

ぼくが言うことを なんでも叶えてくれた

新しいゲームが欲しいと言えば すぐ手に入ったし

今晩はおいしいレストランに 行きたいと言えば

必ずそこに連れていってもらえた

だが

ぼくには 金で動かせない

大きな障壁があることを 感じはじめていた

中学校に上がる頃

ぼくは 自慰行為を覚えた

その快楽が 頭に福音をもたらすようにも思えた

それと同時に 一種邪な願望が

頭をもたげた

「愛する人としたい」

ぼくは満ち足りた生活の中で それだけは金で買えないと

感じはじめていた

だが 臆病者のぼくは

一歩を踏み出すことが できなかった

たしか高校に入る少し前だったか 前々から少し気になっていた子に

恐る恐る声をかけた

「ぼくはきみのことが好きだよ」 と

けれど彼女はこう言った

「アルラくんとは友達でいたい」

それは 思春期のぼくを

完膚なきまでに うちのめすには

じゅうぶんな材料だった

ただ単に失恋したというより

薄々感じていた 「金だけではどうにもならないことがある」という障壁を

その子の返答は見事に 現実に打ちたてたのだった

それまで金という盾を もっていたぼくは

金では買えないものが あると知った

そして身を守る手段を 失っていた

「もうだめだ、死にたい」

ぼくはそんな思いを持って

前住んでいた 市内のマンションの

エレベーターで 最上階に向かった

最上階からは 階段室を抜け

屋上に出ることができる

屋上から飛び降りれば

ひと思いに死ぬことが できるだろう

ぼくは欄干を 手で握って

目を閉じ 身を乗り出した

その時

「危ない!」と 声が聞こえた

詩乃

そんな真似はやめて

アルラ

あんたは…

そこにいたのは 中学1年生の詩乃ちゃんだった

詩乃

死のうとしてたでしょ

アルラ

あんたこそ、どうしてここに

詩乃

屋上に行こうとしてるの見えたの

詩乃

もしかしたらって

詩乃

ついていったら

アルラ

え…

ぼくは自らの行為を 後悔するとともに

詩乃ちゃんに対して どうしてそこまでしてくれたのか

疑問に思った

アルラ

でも

アルラ

なんで助けたの?

詩乃

まだ生きられるのに死ぬって

詩乃

勿体無いよ

詩乃

それに

詩乃

生きてれば何か

詩乃

いいことあるよ

詩乃

だから

詩乃

ここで死んじゃだめ

そう言って ぼくに微笑みかける少女

アルラ

あんたは…

詩乃

わたしは植村詩乃

詩乃

あなたは?

アルラ

ぼくは

アルラ

槙アルラ…

詩乃

いい名前だね

詩乃

色々あるかもしれないけど

詩乃

生きててよかったって思える時が

詩乃

必ず来るからね

そう言って詩乃は

階下へ降りていった

ぼくは 再び

マンションに足を運んだ

そして 詩乃ちゃんのいる階で

彼女に会えないか 胸を躍らせて 待っていた

きっと彼女は ぼくを好いてくれるはず

そんな盲信を 抱いていた

詩乃

あっ

詩乃

アルラさん?

ジャージ姿の彼女は ぼくに気づいた

アルラ

詩乃ちゃん

アルラ

どこかに出かけるの?

詩乃

え、あ、ちょっと走ってこようかなって

アルラ

そうか

アルラ

よかったら

アルラ

その後でいいから

アルラ

カフェ、行きたいな

詩乃

え、でも

詩乃

いいの?

アルラ

ぼくが奢るから

アルラ

詩乃ちゃんと行きたいなって

詩乃

わー!

詩乃

すっごいおしゃれ!

アルラ

飲みたいものも食べたいものも

アルラ

ほしいものは全部頼んでいいよ

詩乃

ほんとに!

詩乃

じゃあこのパンケーキと

詩乃

カフェモカにしようかな…!

アルラ

じゃあぼくは

アルラ

フレンチトーストとコーヒーにしよう

詩乃

楽しみ

詩乃

…ところで

詩乃

さっき「話しておきたいことがある」って

詩乃

なんのこと?

アルラ

それは…

ぼくはえへん、と 咳払いをした

アルラ

詩乃ちゃん

アルラ

ぼくは

アルラ

あの時ぼくのことを引きとめてくれた

アルラ

死という恐怖から

アルラ

ぼくを救ってくれた

アルラ

詩乃ちゃんのことが好きだ

詩乃

えっ

詩乃

アルラさん…

アルラ

ぼくは

アルラ

詩乃ちゃんを幸せにしたい

アルラ

だからぼくと

アルラ

付き合ってください

まるでベタなドラマの ワンシーンみたいに

ぼくは頭を下げ

彼女に右手を差し出した

詩乃

アルラ、さん

詩乃

わたし…

詩乃ちゃんが 困惑している

でも今は 返事を聞かなくては

ぼくはぎゅっと目を瞑り

ぴしっと手を伸ばした

するとその手に

詩乃ちゃんの手が 優しく重なった

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35

コメント

4

ユーザー

主人公の過去が知れて良かったです✨ 続きが凄く気になります…!

ユーザー
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