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芥川「ッ…、ぁ…」
腹部の痛みで目が覚める。
見覚えのない部屋。空調の聞いた清潔な部屋に寝かされている。
ほとんど反射で起き上がろうとした。
その瞬間、傷が疼く。
芥川「ッ、ぅ…」
…、思い、出した。
痛みとともに数時間前の記憶が流れ込んでくる。
大きな拳で殴られ、肋が折れるほど蹴られ、犯された。
これでは逃げようにも、身体が保たない。
周囲に人の気配は感じられない、が…
ふと、自身の身体を見る。
殴られた箇所に湿布が貼られ、骨が折れている箇所も包帯で固定されている。
何故、手当されている…?
何が目的なのか、敵意はないのか、
考えても分かるはずもなく呆然と、天井を見上げることしかできなかった。
ガチャ
芥川「ッ…、!」
何者かが入って来た。
恐らく手当を施した者の関係者だろう。
警戒を解かず、睨みつける。
太宰「芥川君…、」
芥川「ッ、何故僕の、名前を知ってい、る…」
僕が言い終わる前に、黒衣の男が僕を、抱擁していた。
太宰「ごめん、ごめんね」
芥川「貴様、何を…僕は、貴様が何を、言っているのか分からぬ…」
このように優しく触れられたのは、初めてだ。
慣れない動作に体が、震える。
あの子が好きな無花果を買い、戻ってみれば意識を取り戻している。
自然と言葉が漏れる。
芥川君はそんな私を見て、困惑しているようだった。
頭では弁解しようと口を開こうとした。
にも関わらず、芥川君を抱き締めていた。
これには、芥川君も驚いたのだろう。
動揺し、震えている。
まるで未知な街に迷い込んだ幼子のようだ。
太宰「分からなくても良いのだよ。私だけ分かれば良い。」
芥川「分からずとも信用しろと言うの、か…」
太宰「あぁ、私は君の欲しいものを与えられる。」
芥川「何故そのような、利益にならないことをする…?」
太宰「だから、私の部下になれ。」
芥川「部下になることを条件に、望みを叶えると」
太宰「先刻からそう言ってるじゃないか。」
芥川「…、意味を、僕に生きる意味を与えられるか?」
太宰「私に出来ないことなど、ないのだよ。」
自信げに振る舞う口ぶりに、少しばかり期待をしてしまった。
この人ならば、僕に、生きる意味を与えてくれるのかと。
親に愛されず、殴られ蹴られ、挙げ句の果てに捨てられた。
一日一日と過酷な環境で仲間と生きてきた。
仲間が惨殺され 、何の為に産まれてきたのか、分からなくなった。
だが、妹だけは、銀は死なせない。
その執念で此処まで耐えたのだ。
何を今更拒む、捨てられるものは全て捨ててきた。
銀さえ幸せになれるのなら。
芥川「妹は、銀はどうなる?、銀の安全が保証されぬなら僕は…」
太宰「君が妹想いなのは知っているよ、妹さんなら私の部屋だ。」
芥川「なッ、…!」
太宰「危害を加えるつもりはない、2人共生活に困らない支援をする。」
貧民街では、生きていくので精一杯だ。幸せなど訪れない。
もうどん底にいるのだから、生活が保証される方が良かろう。
太宰「部下になるかい?」
芥川「…、(こくっ」
無言で頷く姿を見て、やはりこの子は変わらないなと苦笑する。
太宰「そういうことなら、まずは服だね。」
芥川「僕は…、これで十分だ。」
太宰「いいから!その姿は違和感しかないからね。」
太宰「あと、君はもう私の部下なのだから敬語。」
芥川「すみま、せぬ…」
無意識に落ち込むものだから、甘やかしてしまう。
太宰「これ、着て。」
芥川「…?、承知…」
芥川(何やら見慣れない服に頭をかしげる。命ならば直ちに着替えるべきだろう。
まだ、身体が上手く動かせないのだろうか苦戦している。
太宰「ほら、こっち来て」
芥川「ん、ふぅ…」
服に絡まれながらも、一生懸命に歩いてくる姿に加護欲が…
太宰「まずその布切れみたいな服脱いで」
芥川「脱げまし、た…」
慣れない敬語をゆっくりと喋る。
太宰「今から着せるけど次からは自分で着なよ。」
芥川「は、い…」
一通り着せ終わる。
太宰「やはり、君はその姿が一番落ち着く。」
芥川「まだ袖は余りますが、問題ありませぬ。」
白いスカーフに黒い外装。
この子には黒が似合う。
太宰「ポートマフィアでは勧誘した者が自分の私物を与える仕来りでね。」
芥川「この外装が…」
太宰「あぁ、私が使っていたものだ。」
芥川「…、」
不器用で、感情が上手く表現できなくとも、何処となく嬉しそうにする姿が愛おしい。
芥川「僕は…、貴方の、部下なのでしょう…?」
芥川「何とお呼びすれば良いものか…」
太宰「そういえば、自己紹介がまだだったね。」
太宰「私は太宰治、」
芥川「僕は…、芥川。芥川龍之介。」
それから、少し考える仕草を見せた後
芥川「太宰、さん…でよろしいでしょうか…?」
上目遣いて尋ねる姿に、悶えつつどうにか返答をする。
太宰「好きに呼ぶと良い。」
そう言うと、君はまた何処か嬉しそうな顔をする。
今回は、死なせない。前回と同じ鉄は踏まない。