うるさいグループのなかで、自身はあまりはしゃがないけれど何だかんだ愛されるタイプのマイペースないじられ系男子。というイメージだった。
男女の壁が厚い窮屈な中学生時代を思い返し、高校一年生になった私は昼の教室で平和を噛み締めていた。一緒にいる友人二人だけでなく、この場所にいる生徒は全員が親しげで優しくて、地獄から天国に浮かび上がった気分だった。
私達が穏やかに話す数十センチ隣で、なかよさげに笑い合う男子四人組。のうちの一人。彼に抱いていた印象はたったそれだけで、席も遠いし接点も興味も無く、一年後に一回は喋っておけばよかったと後悔するクラスメイトの一人なんだろうなと思うくらい、冷めていた。というより、小学生以来異性にときめくことのなかった自分は一生恋愛なんてできないとすら思い込んでいた。
第一回定期考査の結果が返却された次の日、評議委員がくじを持って来た。うちのクラスではテスト後に席を替えるらしくて、いわゆる一軍の女子達が周りにいる状況が気まずいなと思っていた私にとってはとてもありがたかった。
放課後、新しく決められた座席表が教室に張り出された。私は数学の点数に絶望しながら、同じ班の子たちと誰が賢いんだろう気になるねと雑談しながら、みんな適当に掃除をしていた。翌日から隣になるらしい男子の名前を目にした後、音と訓が同じ漢字の組み合わせが二つできるなあと意味のわからない事を考えながらも、彼と横の席だった菜乃花ちゃんに話しやすいよと教えてもらい、少しだけ安心した覚えがある。
彼と隣の席になって数日。いやなんなの、嘘じゃん! とあの子を問い詰めたくなるくらい、なぜだかずっと気まずかった。私が苦手なのか知らないけれど、全然こちらを見てくれないし、気を遣われている感満載だし、意味がわからなさすぎてむしろ苛ついていたほどだ。彼はよく学校を休むから、ペアワークができなくて困るんだよと友人に愚痴っていた気もする。でも音読のときに私の滑舌を褒めてくれたり、話すときは笑ってくれたりもしていて、良い人だけど単に女子に慣れていないだけなんだなと自分を納得させていた。隣の私に聞けば良いことを斜め後ろの男子に話しかけに行くのは、嫌われてるんじゃないかって少し傷ついたけれど。
七月のいつか、人の目を見るのが好きな私は授業中に彼の横顔を無心で凝視していて、綺麗だなあと思ったことがある。グループ作業で別の男の子とじゃれあっているときも目は合わせてくれなかったけれど、私は観察していた。俳優やアイドルに全く関心の無い私がホモサピエンスに、というよりいかなるものに対して初めて「かっこいい」と思ったのが彼だった。
彼は音楽を聞くのが好きで、特に愛してやまないバンドのライブに、授業を休んでまで行っていた。SNSの投稿を見て、「楽しかった?」とメッセージを送りたい話してみたいでも迷惑かもしれない、なんて家で悩んでいたのを思い返してみると、そのころから気になっていたんだと思う。
結局雑談をする仲にはなれず、あっという間に二回目のテストが終わる。
そしてまた席替えをすることになった。
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