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ワンクッション
壮年のアジア系らしき警官に取り押さえられたエーミールが、初老の男性警官に後ろ手にされ、手錠をかけられていた。
グルッペンはエーミールの無実を訴えるが、初老の警察官はグルッペンの鼻先に指を突きだして言い放った。
「いいか?坊主。確かにコイツは、クラックはやっちゃいない。だが、レッドリスト入りの植物を大量採集した。証拠もある」
「コイツが…証拠だ。このへんのペヨーテを、ほぼ根こそぎだ」
そう言うと、アジア系警察官は足元に転がっている大きなビニール袋を指差し、吐き捨てるように言った。
「コイツは別件だからな。他のジャンキー共とは別に連れていく」
「お前もコイツの仲間と思われたくなかったら、これ以上口出ししねぇことだ。行くぞ、オラ」
アジア系警察官はそう言うとエーミールの腕を引っ張り、パトカーへと連行する。エーミールには、あまり抵抗する様子はない。
「おい、新米!そのビニール袋をトランクに積んどけ!証拠物件だ!」
「は、はい!」
運転席に乗り込んだ初老の警察官に言われ、新米の若い警察官が重いビニール袋を持ち上げ、トランクに詰め込んだ。
「エーミール!」
グルッペンは憔悴した声をあげ、エーミールの後を追いかける。エーミールはグルッペンの方へと振り返ると、悪戯っぽい笑顔を浮かべ、グルッペンに向かって叫んだ。
「Wir sehen uns wieder,Gruppen!」
後部座席で警察官二人に挟まれたエーミールではあったが、その割に何故か堂々とした立ち振舞いで。
グルッペンはただ、急発進で去っていくパトカーを呆然と見送ることしかできなかった。
「……ごめんなさい、ミスター・グルッペン。貴方とミスター・エーミールにはアリバイはあると、伝えてはいたのですが……」
困惑し、申し訳なさそうなな顔をした副社長の娘が、グルッペンに謝罪する。
だがグルッペンは、その謝罪を聞いていなかった。
「Wir sehen uns wieder(また会おう)…だと?」
エーミールの去り際の言葉が単なる別れの言葉だとは、グルッペンにはとても思えなかった。悪戯な笑みと『Wir sehen uns wieder』という言葉に隠された、エーミールの真意は一体。
「ミスター・グルッペン…?」
難しい顔で考えに耽るグルッペンに、娘は不安そうに声をかけた。
グルッペンは相変わらず反応しない。
彼の目には、世話しなく走り回る部族の集団が映っていた。
グルッペンの目が見開かれる。
「……そうか。そういうことだったのか…!」
「ミスター…?」
グルッペンは壮年の部族男性を捕まえると、いきなり話を切り出した。
「聞きたいことがある。キミらはあのペヨーテの代金を、全額貰っていたのか?」
「え?どうしてそれを…?」
突如声をかけられた部族の男は、驚いた顔でグルッペンを見返した。
「警察には言わん。知りたいのは、そこだけだ」
「……。前金として、三割貰っている。だが、警察に押収され、あの旦那は逮捕された。これからどうするべきか、皆で相談しているところだ」
「……なるほど。部外者の戯れ言だが、全額回収は、諦めた方がいいと思うぞ」
「? わかった。他の仲間にも、相談してみる」
まだ忙しいのだろう。男はそれだけ言うと、急いで仲間のもとへと走っていった。
グルッペンと男との会話を呆然と聞いていた娘が、もう一度おずおずとグルッペンに訊ねる。
「あ、あの……?」
「ああ。すまないね、お嬢さん。どうも我々は、エーミールに一杯食わされたみたいだ」
グルッペンが嬉しそうに笑う姿を見て、娘は訝しげにグルッペンを見ているだけだった。
薬物摂取者とは別に移動させられているエーミールは、両側を警察官に挟まれていても、まるでドライブでも楽しんでいるように上機嫌だった。薬物売人のクセに、やけに余裕のある態度に、若い警察官は苛立ちを募らせていく。
「タバコを吸ってもいいですか?」
挑発的なエーミールの態度に、若い警察官は怒りを露にし、エーミールの襟首を掴み上げて叫んだ。
「いい加減にしやがれ、売人風情が!」
若い警察官の拳が振り上げられた時、突如パトカーが激しいブレーキ音とタイヤの音をあげて急旋回をした。後ろの席に乗っていた三人は遠心力にあおられて、バランスを崩した。
「あっぶねーな、ジジイ!どんな運転してやがる!」
「スマンスマン。道を間違えた」
初老の警察官は笑ってそう言うと、アクセルをベタ踏みし、猛スピードで道なき道を走っていった。
「……おい。どこ走ってんだ?警察署は方向が違うんじゃねぇか?」
「行き先は、合っておるよ」
初老の警察官はそう言いながら、どんどんとスピードを上げていった。
「おい……」
周囲の景色の異様さに、さすがの若い警察官も、先程までの威勢を失いつつあった。
「新米。おめぇ、ウチ入って何年目だ?」
後部座席の窓が開けられ、砂ぼこりが車内に舞い込んでくる。
「え?いや、オレはまだ、警察官になって一ヶ月も経ってねぇ…」
「そうかい」
初老の警察官はそう言い放つなり、運転席から振り返ると、若い警察官の頭に向かって二発の銃弾を放った。
若い警察官の血と脳漿が開けられた窓から飛び散ると、初老の警察官はようやくパトカーのブレーキを踏んだ。
「なんだよハンス。俺がやろうと思ったのに」
「そいつは、坊っちゃまを殴ろうとしておりました。当然の報いにございます」
「『坊っちゃま』呼びは、いい加減もう止めていただいていいですか?」
エーミールの苦情を無視し、初老の警察官はパトカーを停止させると、もう一人の壮年警察官に声をかけた。
「尾上さん。そのゴミ、下ろしていただけませんか?」
「あいよっと」
尾上と呼ばれた壮年の警察官は、ドアを開けてパトカーから降りると反対側のドアに行き、ドアを開けて骸となった若い警察官を引っ張り出してその辺に放り投げた。
「お疲れ様です」
エーミールは尾上に労いの言葉をかけると、エーミールはすでに運転席から降りていたハンスのエスコートを受け、パトカーを降りた。
「この先に、我々の車がございますので、そちらまで少々歩きますが、よろしいですね?」
「はい。尾上さんは『商品』をお願いします」
「おうよ」
尾上はトランクを開けると、ペヨーテの入った袋を担ぎ、エーミール達の後について行く。
「ハンスさん。タバコ吸いたいので、そろそろ手錠を外していただいてもいいですか?」
未だ手錠をつけたままのエーミールはハンスにそう伝えたが、ハンスは首を横に振った。
「私共が警察官の変装をしている間は、そのままでお願いいたします」
「はぁ~…。仕方ありませんか」
エーミールはそう言って大きなため息を吐くと、後ろ手に手錠をつけたまま歩き出した。
しばらく歩くと、廃屋の物置小屋に隠れるように置かれていたクライスラーがあった。
ハンスと尾上は車内から着替えを出すと、二人は警察官の変装を解き、ハンスはパリッとしたスーツ姿に。尾上は軍服に、着替えを済ませた。
エーミールのよく見知った古くからの部下である、執事のハンスと護衛の尾上の姿である。
「よし。警察官の真似も終わったし、そろそろ行くか。今度は俺が運転するから、ハンスとエーミールは後ろに乗れ」
「はい」
ハンスはそう言うと、後部座席のドアを開けて、エーミールを先に座らせて、自らも隣の席に座り込んだ。
「そろそろ手錠を外してもらえませんか?」
「……その前に、エーミール様にお訊ねしたいことがございます」
ハンスの口調が突如厳しいものになり、エーミールの表情が強張り、冷や汗がツッと流れた。
「取り敢えず、車は出すぜ」
「お願いいたします、尾上さん」
ハンスがそう言うと、尾上はゆっくりと車を発進させた。
「さて、エーミール様。グルッペン様と無事にお会いできたようで、何よりでございます」
「……はい」
丁寧でありながら、言葉の端々にあるトゲに、エーミールは居心地の悪い痛みを感じていた。
「別れ際のグルッペン様の必死さは、ただ事ではありません。何をなさいました?」
「…………ちょっと……咥え込んだだけ……です」
怒られた子供が言い訳をするかのように、エーミールが口を尖らせて呟くと、ハンスは片手でこめかみを押さえ盛大なため息を吐いた。
「仕方ないじゃないですか!相手の本性知るのは、セックスが一番なんですよッ?」
「そのようなことで、相手を見極めるのはもうお止めなさいと、あれほど……!!」
「だから彼には、私とわからぬようにペヨーテで幻覚を見ている最中に、したんです!まさか、グルッペンの幻覚の中に私が出るなんて、想定してませんよ…!」
「そこが問題なのではありません!いい加減に、ご自身の事も大事になさいませ!」
「してますよ!だからグルッペンとする前に、ちゃんと入念に準備もしたし、彼に一度出させた上でゴムも装着させました!」
若い主人の言葉に、ハンスは両手で頭を抱え、深く項垂れた。
どうにもこのご主人は、価値観がずれている気がしてならない。虐待続きの幼少期のことを思えば、無理はないのかもしれない。せめて今からでも、軌道修正できないかと思った矢先に、コレである。
「同年代の男は初めてでしたが、若いと本当に回復が早いですね。ペヨーテの成分にも興奮作用があるのでしょうが、口で出させた後でも、ちょっと弄っただけですぐ回復しましたよ」
「まあ、グルッペンはおそらく、セックス自体が初めてだったのでしょうね。初めてが私なのは申し訳ないと思いましたが、彼にとっては夢での出来事ですから」
朗々と、悪びれることもなく、赤裸々に性体験を語る若き主人に、初老の執事は育て方を後悔した。
一度屋敷を去った時、無理矢理にでもこの方を一緒に連れ出すべきだった。
「諦めろ、ハンス。コイツにとっては、モノだろうが人だろうが自分だろうが、判断の基準は役に立つか立たないか、だ」
「そういう意味では、グルッペンは面白い男でしたよ。私の想像の範疇を越えています。実に面白い男です」
エーミールは嬉しそうにそう言うと、どこまでも広がる青い空を車窓から見つめた。
霧もなく、どこまでも陽の光が照らす青い空。エーミールのデータにない、思考と思想の持ち主。
どこまでも自由に走り回りたくなる。
本当にこの国に来て、良かった。
「それは…ようございました。では、このまま東海岸へと、向かいましょう」
「L州通りますよね?ケイジャン料理食べてみたいです」
「いいぜー」
「勝手にお決めにならないでください」
「あと、もういい加減に手錠を外してください。タバコ吸いたくて、仕方ないんです」
「次のドライブインまで、そのままでいてくださいませ!そもそも、坊っちゃまはまだ、タバコを吸っても良いお年ではないでしょう!」
ハンスもいい加減、ズレまくっている主人に疲れたのか、語気を荒げて叫んだ。
普段は温厚な好好爺のハンスが怒鳴る姿に、運転中の尾上はゲタゲタと声をあげて笑う。
「ヤクの売人やってもいい年でもねぇけどな」
「年齢関係なく、本来はクスリも武器も、おおっぴらに売っていいものではございませんよ」
「手っ取り早く稼ぐには、アンダーグラウンドが一番ですからね。稼ぎながら勉強するなら、この国は本当に都合がいい」
「論文を見せた教授達から、何名かオファーが来ておりましたね。お受けになられますか?」
「いえ。まだ熟考の余地がありますので、興味を持っていただけるだけで充分です。と、全てに返答しておきました。少しの間だけ、学生生活を楽しみたいですからね」
「承知致しました。ですが、変に羽目を外さぬよう、お気を付けなさいませ」
「はい。わかってます」
エーミールはそう言って苦笑を浮かべるが、今回のキャンプでの経験に触発されたエーミールに、初老の執事は先行きの不安を覚えたのだった。
【続く】
コメント
6件
ハンスさんと尾上さんきちゃぁぁぁ!! emさんの人の見極め方を生で見てみたいですなぁ(真顔)