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1.いざ、最終選別へ
最終選別へ出発する前、霧鳴が鬼のことについて教えてくれた。
鬼は不死身。身体能力、再生力共に非常に高く、日光か日輪刀でしか殺せない。鬼の中には”血鬼術”と呼ばれる特殊な能力を使う者もいる。鬼は元々人間。何らかの理由で”鬼の始祖”である鬼舞辻無惨によって鬼にされたのだ、と。
「始祖…」
そいつがいなければ、人間は皆幸せだったのかもしれない。
ふわ、と藤の花の香りがした。
「何処かで咲いてるのかしら…」
影沢がそう思いながら藤襲山に行くと、驚く程大量の藤の花が咲いていた。香りの元はここだったようだ。
「…!」
最終選別には20人ほどが来ていた。皆それぞれの刀を持っている。
(皆…ここにいる人は皆、鬼のせいで大切な人を…)
影沢は右手の日輪刀を強く握りしめた。
「それでは、行ってらっしゃいませ」
白髪のおかっぱ頭の子が、こちらに向かってお辞儀をした。私は山へと入っていった─。
2.生き残れ
入山してすぐ、影沢は東に向かった。東は太陽が一番早く上るからだ。
ピシッ、と小枝が折れる音がした。
「!」
影沢はすぐ後ろを振り向いた。
鬼がいた。
(怖くない!何年修行してきたの!!やれる!できる!!)
影沢は刀を構えた。
《霞の呼吸 肆ノ型・移流斬り》
低い体勢からの攻撃。影沢の周りに霧がかかった。
鬼はうめき声をあげ、塵と消えた。
(倒せた…!!)
心臓が跳ね上がる。霧鳴から教えてもらったことはちゃんと習得できていたのだ。
影沢はそのまま、向かい来る鬼をなぎ倒した。
2日目、3日目、4日目…
5日目に、影沢は鬼に頬を切り裂かれた。深い傷ではなかったが、泣きたくなるほど痛かった。
それでも、影沢はただ、復讐心を胸に鬼を倒し続けた─。
3.突破
ついに7日目が来た。山から出た影沢は頬と羽織を切り裂かれ、口から血を流していた。あの時と同じ、鉄の味がした。
「おかえりなさいませ」「ご無事で何よりです」
入山するときにもいたおかっぱ頭の子が口々に言った。
その後のことは覚えてない。
気づいた時には支給された隊服を持ち、肩にカラスを乗せて満身創痍で歩いていた。
「着いた…」
やっと霧鳴の家が見えた。急に疲れが出てきた。
「霧鳴さん…!」
影沢は泣いていた。何故泣いているのか、自分でも分からなかった。
扉がガラッと開いた音がした。
「霧鳴さ…」
だが、中から出てきたのは霧鳴ではなく、影沢より少し年上の青年だった。
「! 霧鳴さん!!」
青年は影沢を見るやいなや、再び家の中に戻って叫んだ。
直後、霧鳴が物凄い速さで走ってきた。
「よくぞ戻ってきた…!!よくぞやり遂げた…!!」
霧鳴は泣いていた。影沢も再び泣いた。抱き合って大声を上げて泣いた。
その様子を、まだ名も正体も知らない青年が穏やかな顔で見ていた。
4.温かい夜
どれくらい経っただろう。もうすっかり日が落ちている。
「おい、起きろ。おーい」
「ん…」
重い瞼をゆっくり開くと、そこには先程いた青年がこちらを覗き込む姿があった。
「は…じめ…まして…」
「飯。めーし。ほら、あっち」
影沢の挨拶を聞かず、隣の部屋を指さした。鍋のいい匂いがした。
「疲れてるんだから寝かせてやれ」
「えーでも…鍋なんて滅多にないっすよ?食わないと損ですって」
霧鳴がお玉で鍋を掻き回していた。青年はその向かいに座り、私は霧鳴の隣に座った。
「祝いだ。儂が作った」
旬の野菜や魚がたっぷりと入った豪勢な鍋だった。きらきらと光っている。
「わぁ…!!」
見かけによらず料理ができるのだ霧鳴は。影沢はそんな師範を尊敬していた。
「そう言えば…まだ紹介していなかったな」
霧鳴が青年の方をちらと見た。
「儂の弟子だ。お前にとっては兄弟子に当たるな。仲良くしてやってくれ」
口をいっぱいにしてもぐもぐした青年がこちらを向く。
「やぅいらおあぇ れす」
「真面目にやれ」
「あい」
霧鳴に一喝され、青年は口の中のものをごくりと飲み込んだ。
「矢継尚風 です。今日は霧鳴さんに呼ばれて来てます。よろしくね」
やつぎなおかぜ 。今の時代あまり聞かない名前だ。
「お前のことは聞いてる。影沢、でいいよな?」
「あ、はい」
どうしてこう周りの人間皆苗字で呼ぶのだろうか。名前で呼んでほしい。
でも。
それでも、影沢には自分を家族のように思ってくれる人がいてくれる。それだけで嬉しかった。
「今日は寝な。しばらく休んでりゃ刀来るから」
矢継にそう言われ、影沢は大人しく眠りに着いた。
5.任務へ
2週間程して、専属の刀鍛冶が日輪刀を持ってきてくれた。
(ひょっとこだ…)
日輪刀を作る刀鍛冶は皆、ひょっとこの面を付けているらしい。
「初めまして。この度影沢殿の刀を担当させて頂くこととなりました鉄雨です。”鉄の雨”と書いてかなさめ」
鉄雨さんが静かにぺこーっと頭を下げた。優しそうな人だった。
「では早速、これを」
影沢は鉄雨さんから刀を受け取った。両手にずっしりと重みが加わる。
「日輪刀は持ち主によって色が変わるので、別名”色変わりの刀”と呼ばれているんです」
鉄雨にそう言われ、影沢は刀を見てドキドキした。
傍らでこちらを見守る霧鳴と鉄雨の元で、影沢はゆっくりと抜刀した。しばらく眺めていると。
ズズ、と根元の色が変わり始めた。
「わぁ…!」
みるみるうちに色が変わっていき、ついに刀全体が淡藤色に染まった。
「おや」
鉄雨が不思議そうな顔(であろう)をした。
「なんですか?」
「霞の呼吸なら白に変わるはずなのですが…」
「色が違うことは稀にあるだろう。しかしこれでは蛇だな」
「蛇!?」
鉄雨が首をかしげ、霧鳴が顎に手をあて、影沢は予想外の言葉に驚く。
「鬼殺隊の頂点に立つ柱の中に”蛇柱”という奴がいてな。そいつの刃が紫なんだ」
「蛇の呼吸の適性でもあるんでしょうか…?」
影沢は爬虫類、両生類が大の苦手だ。蛇なんて以ての外だった。
─鉄雨さんが帰っていった直後、鴉が窓から入ってきた。
「北西!北西ィ!北西ノ町ニ鬼ノ情報アリ!!心シテカカレェ!」
「…初任務だな。気をつけて行けよ」
あぐらをかいてこちらを見つめる霧鳴を見返す。
「…では、霧鳴さん」
行ってきます、と、影沢は家を出ていった─。
続