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花と影と月の音 〜本編〜

花と影と月の音 〜本編〜

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第4話 「初任務」

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2023年03月31日

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1.鎹鴉

北西の町。そこでは最近、毎夜毎夜人が道端で死んでいるという。

「北西…こっち?」

影沢は地図を見ながら肩に乗った鴉に聞いた。

「北西!北西ィ!」

鴉は叫びながら鋭いクチバシで行く先を示す。

「いい加減”鴉”って呼ぶの可哀想かしら…」

何か名前をつけようか、と影沢が呟く。その顔を鴉がつぶらな瞳で見やる。

「カー太郎…」

「カァァ!嫌ダァ!嫌ダァ!!」

鴉が食い気味に拒絶した。そんな変な名前にされては堪らない。そうだよねと影沢は笑った。

「!」

ふと、影沢が横を見る。

そこには一輪の伊吹麝香草が咲いていた。

「綺麗…」

穏やかな風に揺れる伊吹麝香草を見て、影沢は決めた。

「伊吹…はどうかな」

鴉は嬉しそうにバサバサと翼を羽ばたかせた。

「伊吹!伊吹ィ!」

こうして、鴉の名前は”伊吹”となった。

2.藤の花の家紋

「初めまして。突然押しかけてすみません…」

夕方、影沢は近くの藤の花の家紋の家に泊めてもらうことになった。

藤の花の家紋の家、というのは、鬼殺隊隊士の手助けを無償で行っている者のこと。過去に鬼に襲われそうになったところを鬼殺隊に助けてもらったことが始まりなんだとか。

「鬼狩りさまでございますね。鴉からお話は聞いています。どうぞどうぞ」

若い家族が優しい笑顔で出迎えてくれた。ここで夜まで待機するのだ。

「わぁー!本物の鬼狩りさまだ!カッコいい!!」

家にいた幼い男の子と女の子が寄ってきた。影沢の腰に携えた刀をじっと見つめる。

「これがニチリントウっていうやつ?これで鬼を倒すの?」

「カッコいい技とかたくさんつかうの?」

「そうよ。まだ私は入隊したばかりで強くないけど…」

影沢の顔から自然と笑みがこぼれる。2人の幼子は純粋無垢な目をしていた。

「鬼狩りさまは強くなくてもカッコいいよ!ボクたちのご先祖を守ってくれたんだもん!」

嬉しかった。この子たちのためにも、今宵必ず鬼を討とう。そう思った。

3.任務開始

「鬼狩りさま…何卒お気をつけて…」

主人が深々と頭を下げた。少年と少女も寂しそうに、しかし大きく手を振る。

「ありがとうございます。必ず倒します」

影沢も手を振り返した。

─さて、日も落ちて暗くなってきた。そろそろ鬼も出る頃だろう。

「ココ!!」

「え?」

「昨夜ハココデ人ガ死ンデイタ!!」

伊吹が叫ぶ。影沢は刀を握りしめた。

(来るとしたらここ…)

その時だった。

「おや、やっと来たか」

「!?」

「ご苦労なことよのう。今まで何人も死んでいるというのにまだ来るか」

年老いた老人の─鬼!

《霞の呼吸 肆ノ型・移流斬り!》

流れるように技を繰り出す。

だが、避けられた。

「貴様鬼狩りか。それにしては随分と弱そうだがな」

「くっ…」

鬼は何処までも冷ややかな目で影沢を見据える。その後ろには、先程まで戦っていたであろう隊士が数人倒れて死んでいた。

《霞の呼吸 弐ノ型・八重霞》

幾重もの霞が重なって斬撃となる。霞の多さで周りが白く霞む。

今度は当たった。

余程死なない自信があるのか。敢えて攻撃を受け、突き出していた右腕が千切れて弾き飛んだ。地面に落ちる鈍い音がする。

「霞か。なんとも粋な演出じゃ。いいのういいのう。霞は3人目じゃ」

鬼が目を細めて笑った。

「儂も行くぞい」

4.弓鬼

鬼が落ちていた己の腕を傷口に押し付けた。ずぶずぶと気持ちの悪い音がやけに大きく響く。

(再生…!!)

影沢が驚く間もなく、鬼はすぐに攻撃を仕掛けてきた。

《血鬼術・鳴弦ノ儀》

鬼は何処からか奇妙な黒い弓矢を取り出した。

(弓矢…)

「離れ」

鬼がそう呟いた瞬間、その黒い矢が影沢に向かって飛んできた。

「!!」

「儂の矢に当たると死ぬぞォ?矢に血を吸い採られて終い。かと言って無理に引き抜こうとすれば失血死。可哀想じゃのう。失血如きで死ぬなんてのう」

鬼がニタニタと笑った。かと思うと、再び弓矢を構えた。

《血鬼術・速射》

(速い!!)

《霞の呼吸 伍ノ型・霞海の海!!》

影沢が向かい来る矢を中途で斬った。息が荒い。

「楽しいのう、楽しいのう。弓矢は実に面白い」

でも、これで最後にしよう。と、鬼が呟いた。

5.漆黒

《血鬼術・千射》

漆黒の矢が千本にもなって飛んできた。影沢が焦る。

(今度はちゃんと見極めて。大丈夫。私ならできる!)

《霞の呼吸 参ノ型・霞散の飛沫!!》

高速の回転斬り。飛んできた千本もの矢を全て弾いた。

頸を切ろうと影沢が鬼に近づいたその時。

「ッ…!!」

左肩に激痛が走った。恐る恐るそれを見る。

矢が刺さっていた。

「!?」

いつの間に刺されたのか。矢は影沢の血を吸い採ろうとしている。

「ほほほ。面白い、実に愉快じゃ。今まで来た鬼狩りもそうやってバタバタ死んでいったわい」

鬼が影沢を指さして笑う。わくわくとした顔で影沢が死ぬのを待ち望んでいた。

だが。

「!!」

影沢は鬼の目前にいた。

6.想い出

ザン!!

鋭い音がした。

「は…?」

鬼は頸だけの状態となっていた。

「…あなたにとって、弓矢は本当に大事なものなのね」

でも、と影沢が言う。

「でも、それを使って悪戯に誰かを傷つける奴、大嫌いなの。ごめんなさい」

悲しみと、憎しみが込められた目を向ける。

鬼は何も言わず、ただ静かに塵と消えた。

残った着物の中には、小さな黒い弓矢が落ちていた。

「…ハァ…ハァッ…」

影沢は倒れていた隊士の元へ、ふらつく足で向かった。死んでいた内の1人は同期の男だった。

「倒したよ…」

どうか、安らかに眠ってくれ。そんな思いを込めて、影沢は隊士の手を取った。

そこで影沢は貧血で倒れた。

花と影と月の音 〜本編〜

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