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1.任務の終わりに
(あれ…私今何してるんだろう…)
うつ伏せでぶっ倒れている…気がする。
「見つけたぞー!!」
若い男の声がした。数人いる。ほとんど意識のない中、声だけが聞こえていた。
「状況は!?」
「負傷した隊士4名!3名は死亡!内1名は…まだ生きてる!!」
私の事だろうか、と影沢は思った。手首を触られたような感じがした。
「脈はある!出血が酷いから先に運んでくれ!!」
あれよあれよという間に影沢は担架に乗せられた。
(私…鬼…倒せたんだ…)
涙が流れ落ちた。
2.隠
「…ん…」
薄く目を開ける。太陽がとても眩しい。そして、清潔そうな消毒の匂い、藤の花の匂い。影沢が夢だったのか現実だったのか分からない過去を振り返る。
「あ、おはよ」
「え?」
身を起こして横を見ると、見慣れた顔─
「矢継さん…!」
そう、兄弟子の矢継尚風だった。
「お前大丈夫か?昨日の任務で貧血なってぶっ倒れてたんだってよ」
「そう…でしたか…」
矢継は黙々と伊予柑の皮を向いている。…ので目を合わせてくれない。
「んでもお前ちゃんと倒したのすげぇよ。俺の同期の隠が言ってたけど、アイツ初任務にしては手強かったって」
「カクシ?」
影沢が首を傾げた。矢継が腑に落ちたような顔をする。
「隠ってのは戦闘の事後処理部隊のことだよ。一応鬼殺隊隊士だけど、剣技の才が認められなかった奴がなるんだ」
伊予柑を向き終わった矢継がそれを食べる。私のためじゃないんだ…と影沢が思う。
「口元に一反木綿みたいなの着けたヤツらいただろ?アイツらだよ」
「あ…よく覚えてないです…」
一反木綿…。例えが独特すぎる。
「お前のこと担架で運んだ奴らだよ。まぁ覚えてなくてもいいけど」
矢継が椅子から立ち上がった。
あ、そうだ、と言い影沢の方を振り返る。
「今お前輸血してっけど、それが終わって怪我が治ったら次の任務一緒に行くからな」
「一緒に?」
「おぉ」
合同任務なんてあったのか。影沢は目をぱちくりさせた。
「んじゃ、またな」
矢継は伊予柑を持ったまま部屋を出ていった─。
3.蝶屋敷
それから2日後、貧血もすっかり治り、蝶屋敷(という名前らしい)で”機能回復訓練”を行った。
機能回復訓練というのは、負傷して鈍った体を再び元の状態へ戻す訓練のことだ。柔軟や反射神経の訓練など、その種類は実に様々。
「わぁ!影沢さん柔らかい!」
蝶屋敷で隊士の看護にあたっているという3人の少女の1人、なほが影沢の背中を思いっきり押している。開脚した状態の影沢は胴がぴったり床についている。
「反射神経の訓練も大丈夫そうでしたし、明日にでも復帰して大丈夫でしょう」
キリッとした顔の2つ結びの少女、アオイがそう告げた。
「ありがとうアオイちゃん。なほちゃん、きよちゃん、すみちゃん」
するとその時、道場の戸をノックする音が聞こえた。
「あ、はい、どうぞ」
「失礼」
アオイの返事に対し、戸を開いたのは─
「矢継さん!」
「よ。元気そうでなにより」
再び来た矢継だった。
4.突然
「よし、行くか」
「ん?何処へ?」
くるりと振り返った矢継に対して目が点になる影沢。
「何処って任務だよ。合同任務。言ったろ?」
「早くないですか!?」
たった今回復訓練が終わったばかりなのにもう行かなければならないのか。
「アオイちゃんは明日からって…」
「明日から、じゃなくて、明日にも、だろ?ってことは今日からでも行けるってことだ」
論理的におかしい。矢継がすたすたと廊下を歩く。
「まっ、待ってください!」
その時。
「伝令!伝令ー!!」
1羽の鴉がけたたましい声で叫び、窓から入ってきた─いや、突っ込んできた。
「尚風!新シイ任務ダ!行クゾ!!」
「えっ合同任務は?」
「アトデ!!」
矢継は鴉を見上げながら驚く。見上げられた鴉はバサバサと羽を羽ばたかせる。
「え”〜なんだよ〜…せっかく影沢の実力見ようと思ってたのに…」
矢継が頭をガシガシと掻いてため息を吐いた。
「ムッ!?」
「!」
突然、鴉が影沢を鋭い目で睨みつけた。
「尚風ノ妹弟子トイウノハオ前カ!!」
鴉は甲高い声で続ける。
「俺ハコノ優秀ナ尚風の鴉ダ!ダカラ俺モ優秀ナ鴉ダ!崇メロ!ゲハハハ!!」
「コラ巴丸。いい加減その笑い方やめろ」
「ともえまる…」
影沢が呟くと、肩に乗った鴉をなだめすかした矢継が振り向いた。
「そ。巴丸。俺がつけた名前なんだ。お前は名前つけてねーの?」
「あ、伊吹。伊吹です」
「伊吹か。いい名前だな」
突然褒められた影沢は、ありがとうございます、と、照れながら頭を下げた。
「ヨゥシ行クゾ!着イテコイ尚風!!」
「いや、戦うの俺だから…」
2人…いや、1羽と1人は影沢に背を向けて行ってしまった。
「あれ…、私どうするの?」
続