鈍い音を響かせた智は、その衝撃でドサリと後ろへ倒れた。
俺はハァハァと息の上がった呼吸のまま立ち上がると、智からの反撃に備えて身構える。
(…………?)
中々起き上がらない智を不思議に思い、ゆっくりと近寄って様子を伺う。
———!!!?!!!?
ヘタリとその場に倒れこんだ俺は、ガタガタと震える身体で後ずさった。
目の前で、ピクリとも動かずに仰向けで倒れている智。その目からは尖った鉄が突き出し、後頭部から貫かれている。
草むらで隠れていてよくわからなかったが、所々に錆びれて折れた鉄や木材が落ちている。それに、運悪く刺さったのだ。
(そうだ……っ。これは……、俺のせいじゃない……)
そう自分へ言い聞かせると、呼吸を整えてもう一度智に近付いた。
草むらに横たわったままピクリとも動かない智を見て、思わず笑みが溢れる。
(……とりあえず、隠さなきゃ)
そう思った俺は、ズルズルと智を引きづって井戸まで移動させると、想像以上に重たい智を懸命に持ち上げた。
やっとの事で井戸の縁に上半身を置くと、ハァハァと息を上げながら額の汗を拭う。俺は休む間も無く智の足を掴み上げると、そのまま勢いよく井戸の中へと落とした。
「…………。さよなら、智……」
空っぽの井戸の中を見つめながら、俺はニヤリと笑って小さく呟いた。
——その後。
行方不明になった智の捜索は暫くの間続いたが、遺体など出てくる訳もなく、いつしか大人達は神隠しだと噂するようになった。
そんな大人達を横目に、俺は内心、何て馬鹿な奴らだと蔑《さげす》んだ。
智がいなくなったお陰か、司と隆史からのイジメも段々と減り始め、その後、中学二年で転校するまでの三年間、俺は比較的平穏な暮らしを送る事ができた。