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なんだか背中が少しむず痒い。

それはそれとしてレイブランとヤタールのいつものアレの感覚がある。

朝が来たのだ。起きるとしよう。


〈ノア様!朝よ!起きて頂戴!みんなはもう起きてるわ!〉〈今日もいい天気なのよ!みんな揃ってるのよ!それと”死者の実”が食べたいのよ!〉

〈まったくこ奴らは…本当に厚かましいのぉ…〉

〈主もそれを良しとしているのだ。言っても仕方のないことだろう。それに、こうでもしなければ、主はおそらく一日中寝ているぞ?〉

〈ご主人おはよ。起きたのなら尻尾をどかしてもらって良い?いつもは『入れ替え』で離れてたけど、アレって、ちょっと疲れるんだよね〉


おっと、ここに来てまたも新事実が発覚した。

身体に密着しているウルミラの声に目を向けて彼女を見れば、ウルミラが私の尻尾に捕まっていた。

私の寝相だろうか?もしかして毎日こうなっていたのか?彼女の首周りを撫でながら、尻尾をどけて聞いてみよう。後は、採取されている果実を尻尾で切り分けて皆に配っておこう。


「ひょっとして毎日こうなってたの?」

〈うん。ご主人って基本的に寝るとほとんど動かないけど、同じ寝床に寝てて体が離れてると、尻尾でご主人の傍まで引き寄せられちゃってるね〉


なんてこった。多少の自覚はあるが、私は相当に寂しがりなのだろうか?

同じ寝床で寝てくれているだけでもこの上なく嬉しい筈なのだが、私の本能はそれでは満足しないらしい。密着するほどに尻尾で手繰り寄せていたとは。


それはそれとして、ウルミラが言っていた『入れ替え』だ。

名称からして私が予想した通り、この娘は自分の生み出した幻と自分の位置を入れ替えられるようだ。私と戦った時は何でもないことのように使っていたように見えたが、実際にはそれなりに消耗していたようだ。


「寝ていた時のこととはいえ、済まなかったね。苦しくは無かった?」

〈平気。何故かその辺りの力加減は絶妙だったよ。それと、ご主人にくっついて寝るのが嫌ってわけじゃないからね?嫌だったら最初から同じ寝床に寝てないから〉


とても嬉しいことを言ってくれる。感極まってウルミラを抱きしめて撫で回す。あぁ、このフサフサでモフモフな感触、一日中こうして過ごしていたい。

ウルミラの毛並みを堪能していたところ、頭を2ヶ所、結構な勢いで突っつかれる感覚があった。


〈ノア様!今日はみんなと勉強するんでしょ!?〉〈初めてラビックに会った時みたいになってるのよ!〉


いけない。つい我を忘れてしまい本日の予定まで潰れてしまうところだった。折角私の要望通りに起こしてくれたのだから、その好意を無下にするわけにはいかない。

というか、今の私の醜態に呆れられているらしく、若干冷ややかな視線をホーディとウルミラから感じられる。


「ちなみに、皆に聞くけど、他にも私が寝ている間に皆に何かしてることってあったりする?」

〈私が知る限りでは特には無いよ。怪我をしたのもホーディがノア様を起こそうとしたときの一度だけ〉


天井の巣から様子を見ているフレミー曰く、今のところ私が寝ている間に傷つけてしまったのは、一度だけらしい。

他に申告が無いようなので、それ以外は問題無かったのだろう。ウルミラは寝返りに巻き込まれて大怪我を負いたくないと言っていたが、そういった事態にはなっていないようで安心した。


さて、私の寝相についてはこれぐらいで終わりにしておこう。話が進まない。


「話が進まなくさせてしまってごめんね?そろそろ本題に入るとしようか」


寝床から降りて皆と果実を味わいながら、意味を持った形を教えてもらおう。できれば、そこから更に事象を発生させるための図形の形を教えてもらえると一層有り難い。


教えてもらった意味を持った形は、似たようなも形もあれば、まるで違う形もあった。

似たような形はともかく、今まで知らなかった形を自分の知っている図形に組み込んだ場合、どのような効果がもたらされるか、興味が沸いてきたのだろう。レイブランとヤタールがはしゃぎだした。


〈覚えた形を使って外でいろいろ試しましょ!私今凄くワクワクしてるわ!〉〈今まで知らなかった形を使ったらどんな効果になるか分からないのよ!?楽しみなのよ!〉

「レイブランとヤタールはこう言っているけど、皆は自分の手の内を見せて大丈夫?」

〈私は問題ありません。もとより、私の扱えた事象は自身の肉体機能を高める事象。これは他の方にも扱える事象ですので〉

〈ボクも問題ないよ!というか、ボクの場合は特殊すぎて、ご主人ぐらいにしか直ぐには扱えないんじゃないかな?〉

〈おひいさまに仕えた時点でここにいる者達は皆、同志。昨夜ホーディが述べたように知識を共有し合い、互いを高め合うことは歓迎すべきことで御座います〉

〈私が知っている形はみんなも知っていたみたいだし、なんだか悪い気がするけれど、色々試させてもらうね?〉


有り難いことに皆、自分の知っている事象を発生させる図形を披露することに抵抗はないようだ。

というか、皆も新しく知った形を試したいらしく、自分の知らなかった形を使って色々と図形を描いてみたいようだ。意気揚々と家の外へ出ていく。私も外に出て彼らの発生させる事象を確認しよう。


それはそれとして、今日は朝から妙に背中、肩甲骨の辺りがむず痒いな。尻尾で背中をかきながら、外へ出ていく。


さぁ、皆がどんな事象を発生させるか見せてくれ!



いや、凄かった。念のため、元から知っていた図形を最初に一通り見せてもらったのだが、これがまた見事なものだった。


まずレイブランとヤタール。彼女達が使用する図形は、昨日も教えてもらった通りだ。

一つ、空気の刃を高速で射出する『空刃』。

一つ、指向性を持った空気の爆発『風爆』。

一つ、指定した場所に空気の渦を作り出す『旋空』。これは効果を強化させることによって、竜巻を起こすことができた。

その三つが彼女達にとっての主力と言って良いだろう。他にも単純に風を起こしたりもできるのだが、必要性を感じないらしく使用する機会はほとんどないとのことだ。

彼女達は空気や風を操ることに長けているのだろう。


続いてラビック。彼は事前に申告していた通り、肉体の強化を行った。

一つ、身体能力強化。

筋力だけでなく、反射神経や動体視力までも筋力に合わせて増幅させる『強化《ブースト》』。これによって、筋力が増幅した後でも違和感なく行動することが可能になる。

一つ、自身の耐久力強化。

表面だけでなく、内面の筋肉、骨、内臓全てを頑丈なものへと変える『不懐』。この事象は、体の硬度を強化するのではなく、体を壊れなくする事象だった。この事象を発現させた後にラビックの背中に触れてみたが、普段と変わらない、柔らかな毛並みだったのだ。

一つ、硬質化。

対象を指定して硬化させる『|与硬《ギバード》』。ラビックは当たり前のように先述の”不懐”とこの”与硬”を併用していた。また、この事象によって硬化させられるのは生物だけではない。周囲にある適当な物質でも十分な武器、防具として使えるぐらいには硬くなった。

彼が知っていたのはこの三つではあったが、格闘による近接戦闘が主体の彼ならば、この三つで十分だったのだろう。


次はゴドファンスだ。彼の使用した図形は意外にも一つだけであった。

発生させた事象は土や石を、というよりも地面を操作する『我地也《ガジヤ》』のみである。

いたってシンプルではあるが、操作できる解釈の幅が極めて広い。石や土を生成して操作できるだけでなく、勢いよく射出することも可能だ。無数のトゲを隆起させることも、自分の姿を精密に模した、土や石の像を作り上げることもできる。この像は地についている状態ならば、その状態から更に動かすことも可能だった。

とにかく、出来ることが多い。ゴドファンスは操作、と言っていたが、これは地面を操作するというよりも、地面と同化。もしくは地面を支配下においた状態になる、自己強化に分類される事象だろう。


ゴドファンスの発現させた事象についての考察がある程度終わると、近くにいたので撫でまわしていたウルミラの毛並みの感触が突如として消えてしまった。

今度は自分の番。ということだろう。ウルミラの事象は以前戦った時に考察した通り、幻に関する事象だった。

一つ、幻の発生。

自分が認識できる範囲でならば、何処にでも自身の分身体を作り出す『幻影《ファンタム》』。実際にその場で使ってもらって分かったがこの分身体、生み出せるのは一体だけではなかった。今の彼女の力量だと、三体まで生み出せたのだ。

この幻、生み出した後に自在に操作することまで可能である。その上、驚くべきことに全ての幻と視覚、嗅覚、聴覚を共有することも可能だ。

私が驚いたのは、感覚の共有が強制ではない、という点だ。幻を飛ばした先で自分にとって耐え難い音や匂いがあった場合、それを遮断できるのだ。未知の場所や存在を調査するのに実に都合が良いだろう。

一つ、位置交換。

先述の幻と、自身の位置を瞬時に交換する『入れ替え《リィプレスム》』。実にシンプルではあるが、これもまた極めて強力だ。

言ってみれば、多少の制限はあるが、彼女の認識できる範囲に転移しているのだから、細かい説明は不要だろう。

ウルミラが知っていた図形はこの二つだけだが、極めて凶悪だと言わざるを得ない。

以前、この娘をとてつもなく厄介だと評価したが、そんなレベルではないな。


怖がりではあるけれど、この娘は本当にすごい娘だよ。

ドラ姫様が往く!!

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