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テラーノベル(Teller Novel)
春香伝異聞

春香伝異聞

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20

第20話

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2024年03月26日

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結局、訳も分からず言われるまま、夢龍は春香の家業を手伝う事で雇われてしまった。


果たして、退屈しきっている奥方達の相手をするのが良かったのか、裏の家業だろう何かしら人には言えない事、先程、馬で出発した男達のような仕事に付かされるのがよかったのか、それは、今の所わからない。


ただ、昼間から春香を呼ぶ、という屋敷の奥方とやらも、酔狂を越えた、なかなかの食わせ者だろう。はたして、先方が満足する相手ができるのやらと、夢龍は躊躇した。


とりあえずは……、パンジャへ繋ぎをとらねば。


居場所が出来た事を知らせた方が良いだろう。もっとも、小さな街、そして、パンジャの事だから、こちらが知らせなくとも嗅ぎ付けてくるだろうが。


何かあれば、大木の鞦韆《ブランコ》に、縄なり、何なり、結び付けておく、という約束事が本当に働くのか確かめておきたかった事もある。


ここまでは、上手く行っていた。相棒は、パンジャでもあるし、何も心配することはない、のだが……、ここまでとは?


何が、上手く行っているのだろう。


上手くも何も……、はなから、何も行わない。そうではなかったのか?


ふと、夢龍は、これからのこととは、何なのだろうと、自信へ問うていた。


頭上に昇る、月の明かりは仄かなもの。


皆、ひと仕事終えたと、息をつき、散り散りばらばらに消えて行く。


おそらく、休みに入るのだろう 。

──今なら、抜け出せる。


直感的に感じた夢龍は、馬小屋から抜け出して裏木戸から、外へ出た。


見える月は、都と一緒なのに、夢龍を包む夜の薄闇と静けさは、まるで異なるものだった。


一人で、あの大木のある楼閣まで行き着けるのかと、つと、心細くなる程、都とは違う情景に、自然、歩みも速くなる。


怖い……。のだと、気がつき、子供でもあるまいしと、夢龍は自らを落ちつかせようとする。


とにかく、今しかないのだ。行かねばならぬのだ。


そう、言い聞かせ、全てを振り切るように大股で進んで行った。


どのみち、忙そがなければ、春香の店と行き先は、少し距離がある。


抜け出したのを、気付かれてはならないと、夢龍はとにかく先を急いだ。


その、急ぎ足の夢龍を追う者がいた。


薄闇にも関わらず、人より何倍もの長さの影を田舎道に伸ばす男 ──、黄良が忍び足で後を付けている。

薄闇と行かねばならぬと、気を取られいる夢龍は、その存在に気がついていなかった。


もちろん、黄良の方が土地勘もあり、正直、夢龍より悪どさは勝っている。


おおよそ、行き先に見当がついたのか、そっと、脇へそれ、里山の中へ分け行った。


先回りするつもりなのだろう。


何もしらぬのは、夢龍で、時折、夜空を見上げ、足元をほんのり照らす月が、雲に隠れないよう願っている始末だった。

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