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1.夜行
2人の眼前に、大きな醜い化け物が大量に現れた。
「これは…!」
(百鬼夜行!!)
「矢継さん…!」
「逃げろ!!」
2人は走った。今いるのは狭い道だ。ここでは攻撃できない。
すぐ後ろから百鬼の集団が奇怪な声を発しながら2人を追いかけてくる。幸いにも化け物たちは足が遅いようだ。だが真っ暗闇なため、お互い感覚のみで走っている状態だった。いくら夜目が利くと言っても、走ってるとそちらに集中できないため意味が無くなるのだ。
「影沢!そっちに避けろ!大通りに出たら返り討ちにする!」
「はい!!」
真っ直ぐな道から十字路に出た時、影沢は右に、矢継は左に曲がった。
《霞の呼吸 陸ノ型・月の霞消》
待ち伏せた矢継が一瞬にして雑魚鬼を薙ぎ倒す。影沢はこの瞬間、初めて兄弟子の剣技を見た。
「凄い…!」
雑魚鬼はドサドサと地面に倒れた。
「コイツらは大した強さじゃない。俺らが探していたのはこっちじゃないはずだ。絶対どこかに…」
矢継が刀にべっとりとついた鬼の血を振り落としながら呟いた時だった。
「来たな醜い鬼狩りめ。我らの夜行を邪魔するとはいい度胸じゃ」
突然、2人の目の前にポツ…ポツ…と提灯の光が現れた。
「…! 光…」
「わざわざ死にに来るとは…人間というのは全く愚かな生き物じゃ。手始めに貴様らの中で蠢く汚い心臓を抉り取ってやろうぞ」
影沢、矢継の目の前に、着物を着た黒髪の女の鬼が現れた。
2.暗闇
「や…矢継さん…」
影沢は横にいる矢継をチラリと見た。
「大丈夫だ。指示が出るまでは絶対に離れるな」
「は、はい…!」
2人は呼吸を整えて鬼を真っ直ぐと見つめる。フゥゥゥ…と独特な呼吸音が暗闇に響いた。
「ほぅ?ワシを目の前にして逃げぬか。ならいい。ワシが相手をしてやる」
鬼はそう言って不敵な笑みを浮かべ、大きく手を上に振りかぶった。
「よく覚えておけ人間ども。ワシの名は遊闇(ゆうあん)じゃ」
《血鬼術・常闇ノ無情》
遊闇が高く挙げた手に持つ扇子を下ろす。と同時に、突然立っていた地が暗く変わった。
3.遊闇
「!?」
「なっ…!!」
そこは先程よりも更に暗い闇で、ずっと先にいる幽暗どころか、お互いの姿すら見えない。
だが、矢継は見ていた。遊闇が扇子を振り下ろした瞬間、夜の闇が帳のように一斉に降りたのを。まるで周辺の闇を全てここに集めたかのように─
「ハハッ、狼狽えておるな人間ども。まるで虫ケラのようじゃ」
2人は声のする方を振り向いた。
カッ!!
ふいに無数の灯篭に火が灯る。その傍らには巨人が通れる程大きな鳥居が1つ。灯篭の火にぼんやりと照らされている。
遊闇の声がしたのは遙か上─空中だった。遊闇は何もない空をいとも簡単に歩き、そして鳥居に足を着いた。
「ほーぅ?こりゃ眺めがいいのう!鬼狩り共が豆粒のようじゃな!」
遊闇は嬉々としてこちらを見下ろし、鳥居に座って足をブラブラさせている。
「ここはなんだ?」
矢継が頭上の遊闇を睨みつけながら聞いた。遊闇はこちらを振り返る。
「ここは儂の領域じゃ。ここではなんの攻撃も通じない」
遊闇は余裕げな表情を浮かべた。矢継はまた聞き返す。
「今まで攫った人はどこにいる」
「攫った…?」
遊闇は少し考え、やがてニィっと笑った。
「あぁ、これのことか」
そう言いながら矢継らに見せたのは、行方不明となっていたであろう人間の頭蓋骨だった。
「!!」
「どれも実に美味であったぞ。人間は恐怖すればする程美味くなる」
突然、怒りを顕にした影沢が遊闇の元へ走り出した。
「影沢!?」
何か策があるのだろう。その足取りに迷いはなく、先程とは打って変わって冷静であった。
だが。
ドン!!
「ッ…!!」
鳥居の上に座っていた遊闇が、気づいたら矢継の傍らに佇んでいた。容赦なく影沢の首に手刀を打ち込む。
「影沢!!」
「お前も実に弱そうじゃな。ここまでの弱者は久方振りじゃ。今宵は愉快な夜になる」
ゲホッ、と影沢が咳き込む。その様子を遊闇が冷ややかな目で見つめる。
「儂は強い。異能なんてものは要らぬ。ここでお前らを喰ったら儂は十二鬼月に入れ替わりの血戦を申し込むんじゃ」
遊闇は続けざまに蹴りを入れた。
4.力技
《霞の呼吸 参ノ型・霞散の飛沫》
素早い回転で矢継が遊闇の片足を斬る。力のやり場がなくなった片足は遥か遠くへと吹っ飛んでいく。
《霞の呼吸 垂天遠霞》
矢継が遊闇に向かって突進していった。心臓を一突きして動きを止めようとしているのだ。
矢継と遊闇の距離が縮まった瞬間。
「お前は邪魔じゃ」
ガキィ!!
「「!?」」
矢継は何かに捕えられた。
「矢継さん!!」
「クソッ…!」
矢継を取り囲むそれは檻のような形になっていた。よく見ると黒い薔薇の蔓のようなものが形作っている。
矢継は思い切り蔓に刃を立てた。だがその蔓は想像以上に固く、技を使っても壊れない。
「無駄じゃ。それは儂の生み出したものの中で最硬度のもの。早う出んと檻が縮んでいって八つ裂きにされるぞ」
遊闇が今度はこちらを見上げながら言った。鬼の瞳はどこまでも赤黒く、まるで血を映したようだった。
矢継だって弱い訳ではない。このくらいの鬼なら簡単に倒せるのだが、身動きが取れない今、それを実現することはできない。
つまり、遊闇を倒し、矢継が脱出するかどうかは影沢にかかっているのである。
「さぁ、かかって来い」
遊闇はこちらに手を差し出した。
続