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「…あの……その……」
深い沈黙の中、私は口を開いた。
が、蚊の鳴くようなそれは、虚しく空気に消えていく。
……気まずい。気まず過ぎる。目の前の少年とのこの沈黙が。
そして痛い。少年から向けられる視線がとてつもなく痛い。それはもうグサグサと刺さっている。
……何を話せばいいんだ。
私に向けられる視線のせいか、妙に緊張してしまい手汗が出てくる。
ええい、こうしてても仕方ない。
私はふぅ、と一つ息を吐き、俯いていた顔を上げ、口を開いた。
今から十二年前。私は、ヴァムトル王国最大の貴族フィアディル公爵家が第一息女として生を受けた。そして驚くことに前世の記憶持ちの転生者である。
私の前世は、地球という星にある、日本という国に住んでいた十六歳の女子高生だった。しかしある日階段から落ち、打ち所が悪かったのか、お陀仏してしまったのだ。
この記憶を思い出したのは三歳の頃。夢で記憶が蘇り、私は転生者なのだと自覚した。
そんな私の今の名前は、リリアーナ・テイル・フィアディル。
優しい両親と賢い兄に恵まれ、すくすくと育っていった。
そんな幸せが全て崩れ落ちたのは、七歳の時。両親が不慮の事故で亡くなったのだ。
途端、周りの大人は、遺産や空席になった当主の座をどうするかなどという話をしだした。
そんな話を平然とする大人に、ひどく驚いた。そして……苛立った。
話はすぐにまとまったらしく、兄はアカデミーに追いやられ、私は親戚であるマーティアン伯爵家に引き取られた。
両親の突然の死は悲しかったが、新たな生活に、私は少し胸を躍らせていた。
しかし、実際の生活は、想像していたものとあまりに違った。
伯爵夫妻には下僕のように扱われ、使用人には嘲笑われる日々が待っていたのだ。
鞭を打たれ、殴られ、蹴られ、虐げられる毎日。
もうこんな生活も五年目か。慣れたものだな。
そして今日は、マーティアン伯爵の一人娘であるダリアの十六歳の誕生日だ。
今年も盛大なパーティーを開くのだろう。
伯爵邸でパーティーを開くとき、毎回私は離れの掃除を強いられる。
そして鍵をかけられ、離れに閉じこめられるのだ。
なぜならパーティーの時、私に絶対顔を出させない為である。
今日も箒や雑巾などを渡され離れの掃除をしていた。たくさんの部屋を掃除した後、最後に私は書庫の掃除をする。
書庫はとても広く、約十万冊の本が収められているらしい。天井までぎっしりだ。
そんなに本があるのに、気が散らない訳がない。
いつもいつも、一度気が散るともう戻らない。あとちょっとだけ、あとちょっとだけを繰り返しているうちにいつの間にかパーティーが終わる。
今日もそんな感じで読書していたのだが、居眠りをしてしまっていたらしい。
目が覚めて、ああいけないいけないと顔を上げてびっくりした。そこには、真っ白な美貌があったから。
雪のような白皙、艶やかな黒髪、頬に影を落とすほど長く濃い睫毛、深海を掬い取ったかのような紺色の瞳、整った鼻梁、薄い唇。
中性的な美貌。男性的とも女性的とも受け取れる美貌。
切れ長の目が、私をじっと見つめていた。
思わずビクッとしてしまい、彼の視線から逃れるために俯く。
……そして今に至るわけだが。