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一体、何が起こったんだ。
あまりの急な出来事に、ただ呆然と立ち尽くしたまま目前の惨状を見つめることしかできなかった。
周囲はすでに五メートル先も霞むほどの豪雨と、大木すらなぎ倒す暴風に襲われ、近くにあった河川も濁流と化している。
「どうして……こんな……」
全身に叩きつけてくる強い雨粒を防ぐことすら忘れたまま、その場で膝を崩す。当然、頭の先から爪先まですべてが水浸しだ。
けれど、そんなことはどうでもいい。
こんなはずではなかった。
『いいか、雨尊村(うそんむら)の奥にある祠には、昔、蒼翠様に仕えていた妖(あやかし)が封じられている宝珠がある。お前にはそれを持ち帰ってもらいたい』
その妖は過去にあった大戦で酷く傷ついたため、主が宝珠の中に一時的に封印して命を守ったのだという。しかし長い年月が経ち、そろそろ傷も癒えただろうから近いうちに迎え戻そうと考えている。しかし主は邪界の皇子としての公務に追われていて、なかなか迎えに行くことができない。だから代わりに雨尊村に行ってほしい。
半龍人が、そう教えてくれた。
雨尊村は少し離れた場所にあるが、ここ最近の水汲みで体力に自信がついてきたので無理ではないと思った。それに加え、今回のことを仙人こと、白のお師匠様に話したら、
『それは主人孝行なことだ。あやつも気苦労が多いのか、疲労が溜まっているようだから行ってやるといい。よし、おぬしのその孝行心に免じて、その日の鍛錬は休んでもよいことにしてやろう。あと、行き道だけなら手伝ってやる』
そう笑って、一度だけ空間を瞬時に移動できる不思議な宝具を渡してくれた。
白のお師匠様のことを、初めてすごいと思った。
そうして辿り着いた雨尊村の奥地で、半龍人が話していた祠はすぐに見つかった。
長い間手入れがされていないからか、木で造られた小さな祠はほとんどが朽ちかけていたが、辛うじて残っていた扉を開けると、中には話のとおりの宝珠が収められていた。
――これで蒼翠様を喜ばせることができる。
沸き立つ興奮の中、そっと手を伸ばし琥珀色の宝珠を持上げる。
異変が起こったのは、直後だった。
「え……?」
祠から取り出した途端、宝珠が内側から眩しいほどの光を放ち始めた。驚いて指を開くと宝珠は自らの力で宙に浮かび、そして―― 瞬く間に割れて四方へと飛び散ったのだ。
すぐに空が真っ黒な曇天に様変わりし、暴れるような雨と風が吹き始めた。
始めの一吹きで無惨に粉々になった祠は、まるで積年の恨みを晴らしたかのようだった。
地面はすぐに吸いきれなくなった水で川となり、薙ぎ倒された木々はどんどん根元が剥き出しになっていく。
さすがにこれはおかしいと思った。
半龍人が言っていた妖が現れる様子はなく、待てば待つほど状況は悪化を辿るばかり。このまま何もしないでいたら近くにある川が氾濫して、その下流にある雨尊村は大変なことになるだろう。
「どうしよう……」
どうにかしてこの雨と風を止めなければ。でも宝珠はすでに割れてしまっているし、その他の止め方なんてまったく分からない。
考えれば考えるほど不安と焦りばかりが募って、思考がぐちゃぐちゃになる。でも、逃げてはいけないことだけは分かった。
まずはできることからでいいから、何かしよう。
「村の人たちに知らせなきゃ!」
一番はそこからだと、下流の村に向かって走り出す。
するとその直後、川の方から微かだが人の声のような音が聞こえた。
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