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暗い階段を下り食堂へ向かうとすでにみんな集まっていた。
「すいませーん、お待たせして」
軽く挨拶してから俺は席に着いた。
シロはテーブルの下に潜り込んでいる。いったい何をやっているんだ?
ああ、口をモグモグしているなぁ。どうやらコリノさんから干し肉を貰っていたようだ。
「可愛がってもらえて良かったなー」
そう言ってシロの頭を撫でていると、
「先に飲み物はいるかい?」
女将さんにそう聞かれ、テーブルの上を見まわすと皆それぞれ飲み物を頼んでいるようだった。
「エールはありますか?」
ドキドキしながら聞いてみると、
「あいよ!」
女将さんは注文を受けて去っていった。
――よっしゃ。
やっぱりあったよエール。――何か無性に嬉しい。
「はい、こっちがエールね。10バースだよ」
その言葉にあわてて大銅貨を1枚取り出し女将さんへ渡した。
シロはお皿に水を入れてもらった。
俺は早速エールを飲んでみた。
グビ グビ グビ ぷっは―!
う――――ん、悪くない。冷えてはいないがぬるいわけでもない。
苦みは少ないがほのかな麦の香りが鼻にぬける。うん、この世界でもやっていけそうだ!
などとニヤニヤしながら飲んでいると、
「そんなに美味しいのかい、ここのエール?」
「あっ、いいえ前飲んだヤツに似ていたので、つい」
何とかごまかした。エールの味もけして悪くはないのだが。
「何か良い思い出があるのよね~。ゲンちゃ~ん」
カイアさん……。テーブルにはすでにジョッキが1つ横を向いているのですが。――凄!
ここで俺はいくつか気になっていることを聞いてみた。
「この国では食堂や宿でのチップはどうなっているのでしょう?」
「チップ、なんだいそれは?」
「あの、何ていうのか気持ちみたいな……」
「ああ、心づけのことかな。一般にはないねぇ。貴族様がたまに『釣りはいらぬ』なんてやっているだけだよ」
そうマクベさんが教えてくれた。――なるほどね。
「ギルドなんかはどうなっているのでしょう?」
「う~ん業種しだいかなぁ。我々商人は『商業ギルド』で一本化されているし、『冒険者ギルド』も一つに纏まっているかな」
「魔法士ギルドや錬金術師ギルドなんかは特殊な部類だね。それぞれ厳しい基準があるみたいだよ」
「はいよ! 待たせたねー。熱いから気をつけな」
そう言って、まだジュージューと音を立てている肉の皿をテーブルに素早く置いていく。
おほーアツアツじゃん! これは旨そう。
もちろん、シロの向きもしっかりと頼んである。――別料金だが。
シロの肉は表面を少し炙っただけのブルーだな。人間が食べるには心配になるけど……。
みんなの前にお肉が行き渡ったところで、
『いただきまーす!』
うほー、ステーキ旨し! 味は豚に近いかな。美味しければそれでいい。
俺は次に葡萄酒を頼み。シロも足りないだろうともう1皿ステーキを注文した。
シロも満足そうだ。口の周りをペロペロしている。――可愛い。
その後はみんなで少し飲んで解散した。
お湯が部屋に届いたので顔を洗う。
シロの『浄化』があるので本来は必要ないのだが、みんなの手前そうもいかないのだ。
『お湯も頼まないのか、なんて汚いヤツ』とは思われたくないからね。
しかし、浄化って本当に便利な魔法だ。
服も身体も綺麗になるからね。(お尻もね)
流石はシロちゃんだ、可愛いだけではないのだよ。
外から聞こえてくる雨音が少し小さくなってきたようだ。何とかこのまま止んでほしい。
朝まで雨が残ってしまうと道がぬかるんで馬車が走れないそうだ。
それから俺はベッドに横になった。
魔力操作の訓練をロウソクが消えるまでやろうと思っていたのだが、……いつの間にか眠っていた。
こちらの世界に招かれ、若くなってからというもの寝つきがすごく良くなった。
今朝はシロに起こされる前に目が覚めた。部屋は真暗だったので手さぐりで木窓を開けてみた。
外は薄っすら明け方で心配していた雨も上がっているようだ。
シロはベッドの横でブンブン尻尾を振っている。
「よしよし、散歩に行こうなぁ」
シロは後ろ足だけで立ち上がると喜びのチンチンを披露してくれた。
ササッと準備をして1階に下りていく。朝食の準備をしていた女将さんにあいさつして宿屋の玄関から表にでた。
う~ん、朝は気持ちがいいな~。ぬかるみを避けながら村の中央に向かい歩きはじめた。
しばらく、そのまま進み村の外れまで歩いてきたが、
太陽が顔を出したので散歩はそこで切り上げ、俺たちは宿屋へと戻った。
みんなは既に準備を終えて食堂に下りてきていた。
「おはようございまーす!」
俺は挨拶をしながらテーブルに着く。
「この分なら、なんとか行けそうだな」
「そうですか、足止めされなくて良かったですね」
………………
何でも、このヨーラン村からモンソロの町までは馬車を使えば1日で届く距離にあるという。
しかし、今回はぬかるみを避けたり抜けたりしながらの移動となるためどうしても時間がかかってしまうそうだ。
おそらく、この先の村でもう一泊することになるらしい。
頑張ればギリギリ町へたどり着けるかもしれないが、間に合わなければ門の前で過ごすことになる。
日中は開放されているモンソロの町門だが、さすがに夜間は閉じてしまうそうだ。
ということで、モンソロの手前にあるマギ村が今日の目的地となる。
距離も短く半日もかからないということなので、ゆっくり朝食を済ませてヨーラン村を出発した。
昼前まではぬかるみを縫うように進んでいき、午後からは特に問題なく順調に進んでいる。
俺は道すがらインベントリーによる訓練を続けている。――もちろん鑑定もだ。
鑑定できる距離も少しは伸びているが……。まあ、ミリ単位だな。
また、レベルが上がる時を楽しみにしておこう。
程なくして俺たちはマギ村に入った。
モンソロの町からは半日と掛からない村なので人も多いと聞いている。
基本的には麦や豆といった農業が中心の村であるようだ。
そこに、麻などの繊維をはじめ革製品や武器なども町に卸しているという。
そのため、専門の職人も多く住んでおり村としての規模は大きい。
村のメインストリートを通り俺たちは宿屋の前に到着した。
ここは、ほぼ村の中心地でいろいろな店や工房が軒を連ねている。
道には商人や職人さんだろうか多くの人が行き交い賑わいを見せている。
それにどうしたことか、カイアさんの様子がすこし変なのだ。
いつにも増してテンションが高いというか……。
フンす! フンす! と鼻息も荒くやたらと気合が入っている。
ここは馴染みの宿屋ということだが昨日の宿とはまったく違う。
昨日のあれが宿屋のデフォなんだと思って諦めていた。
なのに、どーしてくれんだよ! この気持ちを……。
いい意味で裏切られた訳だが、村によっても違うものなのね。
なにシロもOK! なんて素晴らしい宿屋だ。