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四月二十日……夜九時……。

巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋では、現在とある人物を裁判にかけていた。

お茶の間で行われているプチ裁判での被告人は、水色のショートヘアとテニスウェアのような服と水色の瞳が特徴的な『トワイライト・アクセル』さん(『ケンカ戦国チャンピオンシップ』の実況をしていた人)である。


「被告人、トワイライト・アクセル。あんたは……じゃなくて、あなたは本日未明、この部屋に住む『本田《ほんだ》 直人《なおと》』さんをレイプおよび私物化しようとしたそうですが、間違いないですか?」


ミノリ(黒衣を纏《まと》った吸血鬼)は正座をしているトワイライトさんに対して、そう言った。

すると、彼女は今ミノリが言った内容が少し誤《あやま》っていることを伝えた。


「いいえ、違います。私はたしかに彼をレイプしようとしましたが、私物化しようとはしていません」


その時、検察官のコユリ(黒いレディーススーツを身に纏《まと》った本物の天使)がスッと手を挙《あ》げた。


「裁判長、今の被告人の発言について検察側から申し上げたいことがあります。発言の許可を求めます」


ミノリ(吸血鬼)は自分の右|隣《どなり》に座っているコユリ(本物の天使)に目をやると、コクリと頷《うなず》いた。


「分かりました。検察側の発言を許可します」


「ありがとうございます。では、先ほどの被告人の発言について、検察側からの意見を申し上げます。被告人は先ほど、『本田《ほんだ》 直人《なおと》』さんを私物化しようとはしていないと言いましたが、ここにこの部屋の至る所に設置されている盗聴器があります。まずはこれをお聞きください」


コユリ(本物の天使)は盗聴器の中に録音されていた音声を再生した。

すると、被告人が明らかに彼を私物化しようとしていたことが分かった。


「被告人、今のはあなたの声で間違いありませんか?」


「は、はい、今のは明らかに私の声でした……」


「……では、今の被告人の発言に対して、弁護側の意見はありますか?」


ミノリ(吸血鬼)が自分の左|隣《どなり》に座っているマナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)にそう訊《たず》ねた。

すると、彼女はこう答えた。


「は、はい。えーっと、先ほど被告人が発言したことは事実ですが、被告人は『本田《ほんだ》 直人《なおと》』さんを本気でレ、レイプしようとしたり、私物化しようとしたりなどの行為《こうい》をしようとは考えていません。証拠は、ここにある被告人|直筆《じきひつ》の台本の中にあります」


「なるほど。では、弁護人。今からその台本に書かれている内容を音読してください」


「……え、えーっと、それは今ここで……ですか?」


「当たり前でしょ? ……じゃなくて。と、当然です。証拠を提示できないのであれば、弁護側の意見は通りません」


「そ、そうですか……。で、では今からこの台本に書かれている内容を読み上げます」


マナミ(黒いレディーススーツを纏《まと》った茶髪ショートの獣人《ネコ》)は顔を真っ赤にしながら、被告人|直筆《じきひつ》の台本を読み上げた。


「……い、以上です」


「よろしい。では、被告人に訊《き》きます。あなたは先ほど、弁護側が読み上げた台本通りのことをしたのですか? それともそれ以上のことをしようとしたのですか?」


「え、えーっと、台本通りのことをした……という印象の方が強く残っています」


その時、コユリ(本物の天使)がスッと手を挙《あ》げた。


「異議あり! 今の被告人の発言には、いくつか矛盾《むじゅん》が見受けられます! 裁判長! 検察側は発言の許可を求めます!」


「ええ、いいわよ。じゃなくて……いいでしょう。検察側の発言を許可します」


「ありがとうございます。それでは説明いたします。まず、先ほどの被告人の発言によると、弁護側が提示した台本に書かれたことを実行したそうですが、検察側から提示した盗聴器の内容と異《こと》なっている部分が存在します」


「被告人、今の検察側からの意見を聞いて、何か言いたいことはありませんか?」


「い、いえ、ありません」


「よろしい。では、引き続き検察側の意見を聞いてみましょう」


「はい。では、次に被告人の特殊な性癖《せいへき》について説明します。実は……」


「おーい、マナミー。耳かきしてくれないかー……って、んー? お前ら、いったい何してるんだ?」


寝室とお茶の間を隔《へだ》てている襖《ふすま》がスーッと開かれると、黒いパーカーと水色のジーンズを身に纏《まと》った少年『本田《ほんだ》 直人《なおと》』が姿を現した。


「え、えーっと、これはその……そう! 裁判ごっこよ! ねえ? マナミ?」


「えっ? あ、あー、はい……その通りです。ですよね? コユリちゃん」


「え、ええ、そうですとも。これはただのお遊びです。なので、マスターは気にしないでください」


ミノリ(吸血鬼)とマナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)とコユリ(本物の天使)は、なんとか誤魔化《ごまか》そうとしたが、彼には全てお見通しだった。


「……おい、お前ら。トワイライトさんが悲しそうな顔をしているのは、お前らが何かしたせいなんだろ?」


「ち、違うわよ! これはあんたのためを思って。あっ」


ミノリ(吸血鬼)が両手で口を塞《ふさ》いだ時には、もう手遅れだった。


「ほほう……俺のためなら、トワイライトさんにひどいことをしていいと思っているのか……。そんなことをするような悪い子にはお仕置きをしないといけないな。えーっと、とりあえずマナミとコユリは少し席を外してくれないか? ミノリとトワイライトさんに言いたいことがあるから」


「わ、分かりました」


「はい、分かりました」


二人が寝室へと向かった後《あと》、彼はあぐらをかいて座った。

その後、ミノリ(吸血鬼)をあぐらをかいて座るとできる逆三角形の空間に座らせた。


「さて、これから色々と質問していくが、嘘《うそ》をつこうとしたり、誤魔化《ごまか》そうとしたら、お前の脇腹をくすぐりまくる刑《けい》を執行するから覚悟しろよ?」


「あ、あたしは悪くないもん! この女がナオトに変なことしようとしたから、それで……」


ミノリ(吸血鬼)が彼の方を向きながら、ナオトにそう言うと、彼はミノリの頭を鷲掴《わしづか》んだ。


「この女じゃない、トワイライトさんだ。それに人を裁《さば》くっていうのは、その人のこれからの人生に大きく影響するものだ。だから、例《たと》え『ごっこ遊び』だろうと、遊び半分でやろうとするな。分かったか?」


「わ、分かったわよ……。もうしないからこの手を離して」


ミノリ(吸血鬼)は彼から目を逸《そ》らしながら、ポツリと呟《つぶや》いた。

すると、彼は彼女の頭から手を離しながら、彼女の額《ひたい》に自分の額《ひたい》を重ね合わせた。


「ど、どうしたの? あたし、別に熱なんてないわよ?」


ミノリ(吸血鬼)が目をパチクリさせながら、彼にそう言うと、彼は微笑《ほほえ》みを浮かべながら、こう言った。


「気にするな、ただ単にこうしたくなっただけだから」


「そ、そう……。なら、いいんだけど……」


彼女は少し頬を赤く染めながら、彼から目を逸《そ》らした。


「なあ、ミノリ。どうして俺から目を逸《そ》らすんだ? お前らしくないぞ?」


「そ、それは……その……。き、急にあんたがこういうことしてきたからよ」


「そうか……」


「……え、ええ、そうよ」


彼は彼女の頭に手を置くと、優しく撫で始めた。


「な、何よ」


「んー? 何がだ?」


「そ、それはその……あ、あたしの頭を急に撫で始めたから、どうしてかなって……」


その直後、彼は彼女の耳元でこう囁《ささや》いた。


「……それはな……お前を見てると、ついついこうしたくなっちまうからだ」


「へ、へえ……そう……なんだ……」


「ああ、そうだ」


「じ、じゃあ、あたしがあんたと同じ理由であんたの体に触《ふ》れたりしてもいい……のよね?」


「ああ、もちろんだ。遠慮《えんりょ》なんてしなくていいぞ」


「わ、分かったわ……。そ、それじゃあ、いただきま」


ミノリ(吸血鬼)が彼の血を飲もうとした時、トワイライトさんがポツリとこう言った。


「……あ、あのー、私はいつまでここに居《い》ればいいですか?」


その時のミノリ(吸血鬼)の顔は般若《はんにゃ》のようだったが、彼はニコニコ笑いながら、彼女にこう言った。


「うーん、そうだなー。もう少しかかりそうだから隣《となり》の部屋でくつろいでくれていいぞ」


「そ、そうですか。では、そうさせてもらいます」


「おう、じゃあ、後《あと》でなー」


「は、はい、また後《あと》で……」


トワイライトさんは申し訳なさそうに隣《となり》の部屋までトコトコ歩いていった。


「ねえ、ナオト。あんたはそれでいいの?」


「んー? 何がだ?」


「いや、だから、あんたを犯《おか》そうとした人を許してもいいのかって訊《き》いてるのよ」


「まあ、お前が助けに来てくれたおかげでなんとかなったから、トワイライトさんに罰《ばつ》を与える必要はないかな」


「……そう。なら、いいわ。その代わり、あんたの血を少しでいいから飲ませなさい。それで今回の件はなかったことにするから……」


「おう、いいぞ。ただし、あんまり吸いすぎるなよ?」


「わ、分かってるわよ……」


彼女はそう言うと、彼の首筋に噛み付いた。

彼は小さな口で少しずつ自分の血を飲んでいる彼女の頭を撫でながら、微笑《ほほえ》みを浮かべていた。

その様子をじーっと見つめている他のメンバーの視線に気づいてもなお、彼がその場から動かなかったのは彼女のことを思ってのことだろう。

ダンボール箱の中に入っていた〇〇とその同類たちと共に異世界を旅することになった件 〜ダン件〜

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