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紗羽のことしか、頭に無かった。他のことは全部どうでもよくなって、今あの丘に行っても紗羽はいるのかななんて考えもせずに。
ただ、
走った______
まだ真昼間で、うざったらしい日が振り続けていた。
こんな時間に、いないと思ってた。…のに。紗羽が座ってた。
何で、いるんだろう。いつも夕方に会ってるのに。何のために、ここにいるんだ?
「…紗羽」
紗羽の肩がビクついて、こちらを見る。
「蓮兔、くん」
「何でいるんだよ」
そう言いながら、紗羽の隣にあぐらをかく。
「なんでだろう。空が綺麗だったから」
紗羽の言ってる意味が分からない。何で空が綺麗なことが丘にいる理由になるんだ?
「何それ、紗羽らしいね」
「何それ」
…って、そうじゃない。せっかく会えたんだから、聞かなきゃ。
「昨日さ、何でもないって言ってたじゃん、その傷」
「…」
紗羽が黙ってしまった。それでも構わず話を続ける。
「何でもなくないんだろ?本当は。教えてくれよ、何があったんだよ?」
紗羽に体を向けて、紗羽の目を見詰める。紗羽はこっちを見ない。ずっと俯いたまま。
「本当に、何も無いの。だから、大丈夫!蓮兔くん気にしすぎ!」
本当にそうならいいんだけど。今日の俺はもう違うんだ。ちゃんと紗羽に向き合いたいから。
「紗羽!!教えてよ、本当のこと。何か困ってるなら支えてあげたい」
「…ねえ、本当に?」
「え?」
紗羽の雰囲気が、変わった気がした。
「本当に、困ってたら支えてくれる?」
「もちろん」
「…そっかあ、蓮兔くんは優しいね。…でも、言えない。ごめんね。蓮兔くんは鈍感だから気づかないかも」
「紗羽…?」
何で、言ってくれないんだ。
何で、謝るんだよ。
何で、”言えない”んだよ。
何で、紗羽は俺を突き放す___?
紗羽が、立ち上がって帰ろうとしたとき、「帰らないで」って止められたら、どんなに楽だったんだろう。そんな勇気、俺には無かった。