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:( ;´꒳`;):emさん怒らせんどこ
※注意書きをよくお読みの上、それでもおkな方のみお進みください。
※ちょっとでもアカンと思ったら、即座にブラウザバックしてください。
※この章には、痛々しく残酷な暴力シーン含まれております。
苦手な方は飛ばしてください。
ワンクッション
もう少し。
もう少しで解けそうなのに。
フランコは露骨に忌々しげな顔を浮かべながらも、緩んだロープを外そうと何とか身を捩る。
あの図体のでかいだけの小僧め。なぜもっとちゃんと縄を解かない。
単純な脳筋学生を焚き付け、何とか戒めを解かせようとしたものの、途中で邪魔が入り、中途半端なままだ。
とにかく、ここにいたら殺される。
何とか外部と接触し、事の経緯を全て話さないと。地位も財産も失うかもしれない。だが、奴等も道連れにしてやる。
フランコが何とかしようとバタバタと蠢いていたその時、ドアが軋んで開く音が聞こえた。
「だっ、誰だッ!」
「私ですよ、フランコ教授」
蝋燭の薄暗い明かりの中で浮かび上がった青年の姿に、フランコは驚きとともに救いを見出だした。
「お、お前は……!来てくれたのか!アルべ…」
フランコの言葉を遮るかのように、細長い金属の塊が高速でフランコの顔を掠り、背後にいるゼミ生の肩に刺さった。彼は絶叫のような悲鳴を上げるが、エーミールは意に介さない。
「私の名は、エーミールだ。二度とその名を口にするな」
「ひっ……!」
エーミールの鋭い眼光と左手で弄ぶナイフが目に入り、フランコは恐怖に駆られた。
だが、これは千載一遇のチャンスだと、フランコは思った。
フランコはエーミールの弱味を握っている。そして、約束も取り付けてある。些細な威嚇行為くらいは、目を瞑ってやろう。まずは、脱出が第一だ。
フランコは、努めて穏便に、エーミールの機嫌を損ねないような猫撫で声で、あくまで下手に話を続けた。
「た、助けに来てくれたのだろう…? きょ、協力してくれると、約束したじゃないか……」
「貴方にとっての『約束』とは『暴行からの脅迫』と同意義なのですね」
エーミールは左手で持っていたナイフを天井近くまで回転を付けて投げ上げると目の前でキャッチするを繰り返し、ゆっくりとフランコに近付いた。
「キ、キミは大人しくて優しい子だッ!昔からそうだったろう?」
「……痛いのはキライなんですよ、昔から」
「あ、ああ。そうだったな…。だから…わかるだろう?誰でも痛いのはキライだと…。なあ、アルベル…」
恐怖に耐えながら喋り続けてきたフランコだったが、彼の左目が最後に見たのは、右手に持ったカービングフォークを振りかぶるエーミールの姿だった。
廃屋敷じゅうに、猛獣の断末魔のような悲鳴が響き、立て付けの悪い屋敷を震わせた。
「?!何の音…、声?」
さながら地響きのような反響音に、グルッペンと合流し経緯を説明していたスティーブは、驚いていた。
音の主を瞬時に把握したグルッペンの顔に、緊張が走る。
「しまった。急いでエーミールの所へ行かねば」
「すいません、グルッペンさん。エーミールさんに付いていけと言われたのに」
気がつけばグルッペンの元へと足を向けていたスティーブは、己の怠慢と思い、素直に謝罪する。そんなスティーブを、グルッペンは叱るどころか肩を叩いてねぎらいの言葉をかけた。
「キミのせいではない、スティーブ。エーミールの話術が、それだけ巧妙だっただけだ」
グルッペンは、未だ茫然と座り込んでいるジョージに視線を戻し、ジョージの両肩を強く掴んだ。
「それと、ジョージ。キミも一緒に来るんだ」
「し、しかし、グルッペンさん。ジョージはまだ……」
心身の安定を取り戻していないジョージを案じ、ダニーが割って入る。
「だからこそ来るんだ。エーミールが独りで己の闇と向き合っている時に、ここで指を吸いながら震えて縮こまっているつもりか」
「立て、ジョージ。キミと同じ闇を抱えるエーミールが、どうやって立ち向かっているのか、その目で確かめろ」
グルッペンの言葉に、ジョージの心身はまだ不安定ではあったが、ふらりと、だが自分の意思で、ジョージは立ち上がった。
グルッペンは満足そうな笑みを浮かべて頷くと、右手を高く上げた。
「行くぞ。我々の仲間が、道を踏み外すのを防ぐためにも!」
「はいっ!!」
左目に深々と刺さったカービングフォークの痛みに、絶叫を上げのたうち回るフランコに、エーミールは容赦なく右手に力を入れていく。
「言えッ!!グルッペンに、どれだけ私の事を喋った!!」
「ひっ、ぎ、や、やめ…」
「答えろ!!」
エーミールはフランコの左手を取り人差し指を掴むと、爪と指の間にアイスピックを突き刺した。
この世のものとは思えないほどのフランコの悲鳴。
エーミールは構わずフランコに語り続ける。
「痛いか?苦しいか?……そうだ。痛かった。苦しかった。助けて欲しかった」
顔の穴という穴から、体液を流してうめくフランコの耳元で、エーミールは取り憑かれたかのように甘い声で言葉を続ける。
「誰も助けてくれない。貴様はただ、痛みに苦しみのたうつ私を見て、笑うだけだった」
「今ならわかりますよ、教授!今の貴方の姿は、非常に滑稽だ!!」
そう言って高笑いをするエーミールの姿を、フランコは見ることができない。狂気を孕んだ悪魔のような笑顔はフランコには見えない。エーミールは構わず笑い続ける。
「まさかとは思うが、教授。貴方、お父様や叔父上が、ただの病死や隠遁中だと、思っていたのですか?」
「なん…だと……?どう…いう…」
「二人共、私が殺したんですよ。貴方が教授職に就いてすぐ、くらいの頃でしたかね?」
「……自分の…肉親をッ、手にかけ…た、だとッ?」
「幼い私を性奴隷として、貴方をはじめ大勢の金持ちに売る奴等が、肉親?滑稽ですねぇ!」
エーミールはそう言って鼻で笑うと、今度はフランコの中指の爪と指の間に、ピックを刺した。ケモノの断末魔のような叫び声を上げるフランコの姿に、エーミールは狂ったような高笑いを続けた。
「選んでみますか?教授。お父様のように毒で苦しみのたうちながら死ぬか!叔父上のように、頸動脈を斬られて死ぬか!」
まるで悪魔のような邪悪な笑顔を浮かべているエーミールが見えていたなら、フランコは恐らく恐怖に気を失っていただろう。もしかしたら、その方が良かったかもしれない。
「……悪かった…、私が悪かった…。だから…、助けて…くれ……。助けて…くれる…だろ?アル…」
今度は薬指にピックが突き刺さった。フランコは再び絶叫を上げるが、叫びすぎたせいか力のない叫び声であった。
エーミールはフランコの左目からカービングフォークを抜き取り、口の中へと突っ込んだ。
「次にその名を喋ったら、その汚い舌と下顎をコイツで縫い止める」
フランコの残った右目に映るエーミールの姿は、神か悪魔か。人ならざる鬼気迫る迫力の姿に、フランコは絶望しかなかった。
「もう一度聞く。グルッペンにどんなことを喋った」
エーミールが再び『尋問』を始めようとしたその時。
「エーミールッ!!」
廊下からエーミールを呼ぶ声がした。
その低くもハッキリとした声には、エーミールの暴走を知り、否応なしに中断を促す覇気があった。エーミールは悔しさに舌打ちしつつも、従うしかなかった。
大きな音を立ててドアが開き、グルッペンを先頭に屈強な男達がドカドカと入ってきた。
凄惨な姿のフランコの姿と血の匂いに、男達は短い悲鳴を上げたり、吐きそうになり口を押さえたりしていた。グルッペンは少し顔をしかめただけで、返り血に染まったエーミールに向かって足を進めた。
「……彼等への執行権利は、貴方からいただいているはずですがね」
「だとしても、やりすぎだ。止めろと言ったのは、貴様だぞ」
グルッペンとエーミールの視線が合う。
「……そう言うことですか」
グルッペンの微かな目の動きに気付いたエーミールは、全てを察して小さな声で呟くと、微笑を浮かべた。
「確かにキミには裁量を任せるとは言った。だが、勝手に執行していいとは言ってない」
「それは、申し訳ありません。ですが、言いましたよね?冷静ではいられない、と」
突如目の前で始まった内輪揉めに、重傷のフランコはぼんやりとではあるが、これはチャンスかもしれないと思った。
彼等の狙いは、自分たちへの復讐。だが、どう扱うかについては、一枚岩というわけではない。所詮学生のお遊び半分。少し煽ってやれば、簡単に瓦解する。
そのため、 仲間に引き入れるべきは。
「アr……、エ、エーミール君。悪かった。私が悪かった。だが、これだけは信じて欲しい。ずっと…、ずっとキミの事を…愛してい」
フランコの言葉が終わらぬうちに、エーミールは先程の言葉通り、フランコの舌と下顎をカービングフォークで刺し貫いた。
「もういい!!それ以上喋るな!!」
フランコは悲鳴を上げられない。代わりに喉奥から奇妙な音が出るだけだ。
「痛いのはキライだッ!!苦しいのもキライだッ!!どんなに願っても……、どんなに望んでも……、救いなど、なかった!!」
エーミールがカービングフォークを抜き、再びフランコの眉間に突き刺そうと振り上げた。
ほぼ同時に、タン、タン、と二発の銃声が響き、フランコの頭と胸から鮮血が噴き上がった。
「グルッペン……。何故だ。何故俺に殺させなかったッ!!」
エーミールの叫びに構わず、グルッペンは生き残っていた他の共犯者達にも、銃弾を撃ち込んだ。
「もういい。もういいんだ。エーミールもジョージも……。人殺しの罪は、すべて私が背負う」
「グルッペン……さん……」
泣きそうな声で、ジョージがグルッペンの名を呼ぶ。
人殺しは自分だけではない。グルッペンも背負ってくれた。エーミールも背負おうとしてくれた。
自分は救われていいのか?
かすかな光が、ジョージを照らした。
僅かだが希望を取り戻したジョージの表情に、彼の仲間たちは喜び、抱き合った。
その傍らで、エーミールとグルッペンの視線が合い、二人は誰にも悟られないよう、小さく頷き合った。
「取り敢えず、教授達の死体は、埋めておきましょう。万が一でも、誰かに見つかりたくはない」
エーミールの提案に、この場にいた全員が頷いた。
「エーミールの言う通りだ。まずは外に穴を掘って埋めてしまおう。こんなところに誰も来ないとは思うが、可能性はゼロではない」
グルッペンはそう言うと、腕時計を見て時間を確認する。
「アメフト部の皆は、一旦学校に戻れ。提出した休暇届けは、明日までだ。私が送って行こう」
「それはありがたいですが、エーミールさんは……」
「私がこの格好で学内をうろついていたら、すぐさま警察が来て取り押さえられてしまいます。皆さんが戻るまで、ボチボチと墓穴でも掘ってますよ。着替えもお願いしますね、グルッペン」
そう言って手のひらをヒラヒラさせながら、エーミールは調理室奥にある勝手口から、外に出た。
確かに、返り血だらけのエーミールが人目につけば、大騒ぎは必至である。
「……よし。ジョージ、ダニー、スティーブ。胸糞悪い仕事を引き受けてくれて、感謝する。普通の学校生活に戻るのは…大変だろう。だが、ここ数日の君たちの働きを見れば、決して不可能ではないと確信している。まずは温かいベッドで、ゆっくり休んでくれ」
「グルッペンさんこそ…。貴方が背負ってしまった罪は、ここにいる者達皆の罪です。一人で背負わないでください」
「ありがとう、スティーブ。この後のことについて、エーミールと少し話がある。君らは、帰る支度をしていてくれ」
【続く】