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ワンクッション
裏庭に出ると、エーミールがさっそく穴堀りを始めていた。
「一人で墓穴掘るのは、大変だろう?」
「いえ。古い枯れ井戸跡を二基見つけました。深さも充分そうです。そこに彼等を落として、土と落ち葉で埋めましょう」
「なるほど。それは随分手間が省ける。…で、今掘ってる穴は?」
「キミのだよ、グルッペン」
「いやんw」
「冗談はさておき」
エーミールは穴を掘る手を止め、グルッペンに向き合う。スコップの柄の上で手を組むと、その上に顎を乗せて、悪戯(わる)そうな笑い顔を浮かべる。
「おめでとう、グルッペン。キミの地位は、これで相当に磐石なものとなったな」
「はっはっはっ。美味しいところは、すべて掻っ攫わせてもらったぞ」
「ハナから私に、彼等を殺させるつもりなど、なかったんですね」
「まあ、エーミールが奴等の顔を見て、即首を斬る可能性はあったがな。武装の準備をさせなかったのは、そのためでもある、が……」
「思っていた以上にカトラリーが揃っていたのは、私には幸いでした」
「随分と凄惨な目にあっていたな、教授は」
「正直、あんなものでは足りない。だがあれ以上は、お仲間へのトラウマになりかねませんからね」
「ご配慮いただき、嬉しいよ。血生臭い事件は、やはり彼等にはキツいだろうからな」
エーミールはニヤリと笑うと、再びスコップを手に取り穴堀りを再開した。
「彼はどうですか?」
「今は大丈夫だ。今は、な」
「……。良く言えば優しすぎる。単刀直入に言えば、小心者だ。そして、なまじ実行力がある」
「『働き者』ではある。だが、有能とは言えん。むしろ……」
グルッペンは、メガネを光らせ口端を吊り上げると、踵を返してエーミールに背を向けた。
「朝までにホテルに戻らねばならん。彼等を送りながら、一旦戻る」
「ついでに私の着替えもお願いします」
「穴堀りの手は必要か?」
「できれば一人ほど欲しいですね」
「わかった」
グルッペンはエーミールの方に振り返ると、先程フランコ達を撃ち抜いたM39とマガジンを投げ渡した。
「せめて安らかにいかせてやってくれ」
「貴方にそんな慈悲があるとはね」
エーミールは拳銃を受け取ると、スーツの内ポケットにしまいこんだ。
「人を冷血漢みたいに言うな」
「いいえ。貴方は慈悲深い男だ。だからこそ、皆が貴方を慕い、ついてくる」
「……用事が終わったら、すぐ迎えに来る。食料と飲み物は置いてあるから」
「着替え、忘れないでくださいよ」
エーミールが背中越しに声をかけると、グルッペンは笑って手を上げ、屋敷の中に戻った。
大型ピックアップトラックとはいえ、大柄の男が『四人』乗ると、やはり狭く感じる。
「皆、こんな荒事に巻き込んでしまい、本当にすまなかったな。特にジョージには辛い目に合わせてしまった。大丈夫か?」
「仕方ないですよ、グルッペンさん。むしろ、この場にいる人間は、皆フランコ達を殺してやりたいほど、憎んでいる」
興奮気味にダニーが叫ぶ。同調するように、スティーブも何度も大きく頷いた。
「そうです。ジョージに先を越されてしまっただけで、誰が最初に奴等を殺すか、というところまできていただけです」
「まあ結局、私がすべて掻っ攫ったのだがな」
愉快そうにグルッペンが笑うと、スティーブもダニーも吊られて笑い出す。
「グルッペンさん。エーミールさんも、やはり……」
ひとしきり笑ったあとで、スティーブがおずおずとした様子で、運転席のグルッペンに声をかける。
「ああ。エーミールの怒り狂った姿を見れば、いかに彼の怒りが根深いか、わかるだろう」
「……。『痛かった』『苦しかった』と叫んでいたな。もっとひどいこと、されていたんだ…。あの首席になるような頭の良い男でも」
「なまじ賢かったから、フランコに目をつけられたんだな。ジョージの姉と同じように」
「…………」
「何をもって『悪』を『悪』とするかは、神ですら決めることはできない。ただ、フランコのしでかした事は、我々にとっては命をもって償ってもらうべき悪事だった」
「ジョージは…許されますか?」
「本当に許す、許さないを決めるのは、神でも司法でもない。自分自身だ」
「……グルッペンさんは?」
「私は何人も殺したからな。許されたいなどとは思っていない。だが、信念のためなら、地獄の悪魔とも戦うさ」
「ははっ。グルッペンさんらしい。ジョージもそう思わないか?」
『ははは。そうだね……』
誰もいないはずの助手席から、ジョージの声と気配を感じていた。
そう。
ダニーもスティーブも、ジョージが車に乗っていないことに気付いていなかったのだ。
さも当然ジョージもいるという、グルッペンの素振りと話術で、ダニーとスティーブは完全にジョージがいると思い込んでおり、それは彼等が学生寮に戻っても続いていた。
【続く】