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テラーノベル(Teller Novel)
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リアムが門に近づき、門の横に立っていた騎士に声をかける。

騎士は驚いた様子で馬上のリアムを見上げると、片膝をつき組んだ両手を顔の前まで上げ、頭を下げた。

「リアム王子、おかえりなさいませ。一度国内に戻られたのに再び出られたとのことで、いつお戻りになられるのかと皆様心配しておられます。…そちらの方は?」

少し離れた場所で待っていた僕は、「おいで」と呼ばれてリアムの隣に並ぶ。そして馬から降りようとすると、リアムに手で制された。

リアムが僕に微笑んで頷き、まだ膝をついている騎士に目を落とす。

「こちらは俺の大切な人だ。この人には俺と同等の敬意を示すように。他の者にもそう伝えろ。いいな」

「はっ、承知致しました」

「立て。門を開けろ」

肌でビリビリと感じるリアムの威厳ある態度に驚く。

僕の知ってるリアムは、明るくてどこか軽い感じだ。だから会ってしばらくは王族だとは気づかなかった。だけど今は誰もがひれ伏す王様の威厳がある。同じ王子でも僕とは大違いだ。

門番の騎士が懐から何かを取り出して門扉に当てる。キィという音と共に扉が内側へとゆっくり開いた。

「どうしたフィー。行くぞ」

「あ、はい」

僕は騎士に小さく頭を下げると、手綱を振ってリアムに続いて門をくぐった。中は白を基調とした建物が並んでいる。この王都全体が緩やかな丘に作られていて、丘の斜面に添って並ぶ大小様々な建物の向こう側の、一番高い場所にとても立派な城が建っている。

あれが…バイロン国の王城。大きさはイヴァル帝国の城と大差がない。でもなんだろう。イヴァルの城はとても寒々しい雰囲気なのに対して、あの城は柔らかな雰囲気がする。

城を見上げていた僕に、リアムが「フィーがここにいることが不思議だ」と笑う。

「後でゆっくりと案内してやろう。今から城へ向かうが、先ほど見た大門から続く大通りを行けば城まで近い。だが人が多いからな。この先の道を進もう。フィー、俺はおまえが隣国の王子だということを伏せておく。王子がいたということが知れるとマズいのだろう?」

「うん…そうしてもらえると助かる。あの国にいい思い出はないけど僕の生まれた国だから。僕のことが知れて、もしも争いが起きたら困る」

「バイロンにもあるが、イヴァルには宝石が採れる山があり、貴重な薬草もたくさん生えていると聞く。狙う国は多い。俺もおまえの国と俺の国が争うのは見たくない」

「うん…」

ゆっくりと並んで進みながら、僕はリアムに頷く。そしてキョロキョロと周りを見る。

リアムが笑いながら、脱げそうになっていたフードを僕の頭に被せた。

「初めての場所が気になるのはわかるが、銀髪はしっかりと隠せよ。まだ目立っては困る」

「ご、ごめんっ」

「式を挙げた後なら、フードを被らないで街を歩いてもいい」

「え?いいの?」

「もちろん。俺と一緒にな。だが式を挙げるまでは気をつけろ。美しいおまえを見て惚れる者がいるかもしれないからな」

「…いないよ」

「フィー、自分が魅力ある人物だと自覚してくれ。心配だな…」

ふぅ…と息を吐くリアムを見て、僕も気づかれないように息を吐く。

変なリアム。誰が僕に惚れるというの。そんなの、リアムだけだよ。

「見えてきたぞ」

リアムの声に顔を上げる。

王都を囲む塀よりは少し低い塀に囲まれた、バイロン国の王城に着いた。

リアムが求めてくれるから嬉しくて、何も疑わずについてきたけど、いよいよ王城に入るという時になって、僕の胸の中にある不安がよぎった。

僕はロロの足を止めて俯く。

リアムも隣で馬を止め「どうした?」と顔を覗き込んでくる。

僕は今更ながらに感じた不安を口にした。

「あの…聞いてもいい?」

「なんだ?」

「リアムが僕を妻にすると言ってくれて、嬉しくて失念していたんだけど…。きっと皆には反対されると思う。僕は男だし、他の人達から見たら得体が知れないし…。なのに僕を城に入れていいの?」

「なんだ、そんなことか。改まって聞いてくるから不安になったじゃないか」

リアムが困ったように笑う。

いつもの笑顔や凛々しい顔も好きだけど、今みたいな顔もなんだか可愛くて好きだ。

そんなことをリアムの目を見て思った。

「そんなことって…」

「何も問題はない。むしろ歓迎されると思うぞ」

「ええっ!どうして?バイロン国では同性婚が認められているの?」

「いる。まあ、王族ではまだいないが」

「ほらっ、問題ありじゃないか」

リアムが馬を降りたのを見て、僕も慌ててロロから降りる。

リアムは僕に近寄り手を握って引くと、僕を胸に抱き寄せた。

「俺は第二王子だ。跡継ぎではない。でも兄よりも俺を次の王にしようと企む者がいる。兄の母親の方が身分が高いのに、くだらん話だ。だから兄を推す派閥の者達は、俺を消したくてたまらない。その俺が妻にする者を連れて帰ったと知ったらどうなると思う?事故に見せかけておまえを消しに来るかもな」

「…リアムがいるから…大丈夫」

「ははっ、よくわかってるじゃないか」

リアムが僕のつむじにキスをする。

「だが俺が妻にと連れ帰った人物が男だと知れば、襲ってはこない。男だと子は産めないからな。兄を推す者達も安堵するだろう。だからフィーとのことは反対されない」

「でも…それだとリアムを推す人達は怒るんじゃ…。それにバイロン王はどう思うの?」

「父も反対はしないさ。あの人は揉め事を嫌うからな。兄を王にするために、俺には大人しくしてて欲しいのさ」

「でも…」

「フィー。おまえは何も心配しなくていい。俺が必ず幸せにするから、傍にいて欲しい」

リアムがまっすぐに僕を見つめる。

紫の瞳がとても美しく澄んでいて、その瞳を見ていると僕の中の不安がすーっと消えた。

僕は頷いて微笑む。

「わかった。僕も皆に反感を買われないように頑張って笑顔でいるね」

「それはやめろ」

「えっ、どうして?」

「おまえの笑顔は誰にも見せたくない」

「あ…ごめ…僕、笑うの苦手だから…変だもんね」

「違う。違うけどそう思っててくれた方が…」

リアムがブツブツと呟いている。

僕はどうすればいいんだろうと目を伏せていると、頬にキスをされた。ゆっくりと顔を上げると、今度は唇を塞がれる。優しく触れて離れていく端正な顔を見る。

リアムが片方の眉を上げて息を吐いた。

「あのな、おまえは笑うと可愛いんだ。すごく可愛い。だから誰にも見せたくない。俺の独占欲だ」

「…え?あ…そう、なの…?じゃあ…気をつけるね」

「そうしてくれ。では入るぞ。迎えが来たようだ」

どこに迎えが…と門に目を向けたその時、音もなく扉が向こう側へと開いて、黒髪に青い目の長身の騎士が出てきた。

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