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「…はぁ。」
かったるいため息をつきながら歩くどんよりと曇った正午。
重い足取りで行き先も分からず、ただただ前へ進む。
何も考えずに歩いていると、近くで咽び泣いている少女の声が聞こえた。
なんとまぁ酷い泣きっぷりであろうか。いつもなら放っていくところを、なぜか見過ごせずに声をたどっていくと、路地裏の壁にもたれかかっている5、6歳の少女が体育座りで顔を伏せていた。
今も尚嗚咽を漏らす少女は俺の足音に気づいていない。どうしたものか…。考え込んでいると、いつの間にか泣き腫らした顔をあげてこちらの顔を覗き込まれていた。
「…だぁれ?」
その声は震えていて、きっと幼いながら悪い想像をしたんだろう。不安そうだけど、どこか希望を持った瞳がこちらを見つめてくる。
「…あはは、俺はねー、やさしーおにいさんだ」
優しく微笑みかけたつもりの笑顔はきっと引き攣っていて、穏やかなはずの声色は戸惑いに塗れていたと思う。
そんな胡散臭いお兄さんに気付かず、少女はぱっと太陽のような明るい笑みをこちらに向けてじっと。
何故か俺も目を合わせた方がいいような気がして、ずっと、なにも聞こえない世界で見つめあっていた。
はっと我に返り、辺りを見回してから少女に質問を投げかける。
「…どうして、泣いてたの?」
その質問を耳に入れた彼女は、また目を潤ませた。
あぁ、やってしまった。焦りを隠せずにいると、どうやら彼女は小さいけど大人びているようで、必死に説明してくれた。
「あのね、ぱぱとままがおこってて、かなしくて、わたしもかなしくて、っ、おうちだされて、…おなかすいてっ…」
懸命に話してくれているうちに、こらえきれずに目からまた涙が溢れてきて。
…あぁ、これが父性か。
、っというか、人目につかないところで良かった。いくら中学生とはいえ不審者扱いされたら困る…。
とりあえず少女が泣き止むのを待ち、お腹がすいているようなので近くのコンビニで適当におにぎりを買ってきた。
多少気持ちも落ち着いたようで。さてこれからどうしようか…
悩んでいると、少女の方から声をかけてきた。
「おにいちゃん、ありがとう!わたし、がんばっておうちかえるね!」
あまりにも突然で状況が呑み込めないでいると、そのまま、少し拙い小走りで走り去っていった。
「ばいばーい!」
…追いかけようと思ったが、ここで追いかけるとなんだかいけない気がして立ち止まる。
今度はちゃんと自然に、優しく微笑んだ。
なんだか、胸が暖かくなった。
いつの間にか空はすっきりと晴れていて、気持ちのいい昼だ。
それ以降、俺はその少女に会っていないけど、だけど。
きっと元気にしてる。